ファッション誌などで活躍する写真家ジェニファーは、7つのクリトリスを持つ世界一の淫乱女。その性欲を満足させるため、日ごと夜ごとに行きずりの男とベッドを共にする。特異体質の彼女はエクスタシーの中で一匹のメスに豹変すると、快楽の淵で男を殺し、セックスから2時間後には奇形の子供を出産する。同じ頃、シャイで引っ込み思案な青年バッツは、自らの股間にうごめく異生物に手を焼いていた。それはステロイドやホルモン剤を多量投与したことで、異様なまでに大きく成長したペニス。それはバッツの意志とは無関係に、メスを求めてパンツの中で暴れ回るのだった。淫乱女ジェニファーとデカチン男のバッツは、ある日ついに運命的な出会いをするのだが……。
『バスケットケース』や『ブレインダメージ』『フランフッカー』のカルト監督、フランク・ヘネンロッター監督の最新作。体の一部が異形の生物に変貌して血まみれの凄惨な地獄絵図……という展開はヘネンロッター監督お馴染みの世界。セックスとバイオレンスとフリークスこそ、ヘネンロッター・ワールドなのだ。1980年代に花開いたゲテモノB級ムービーのテイストが、まさか今この時代にリアルタイムで再現されるとは驚くしかない。中身はじつにくだらない。くだらなすぎる。しかしこのくだらなさは、映画を観始めて10分でクセになる。映画の後味はじつに爽快だ。
ナンセンスそのものの映画なのだが、性にまつわるさまざまなコンプレックスの寓話といったニュアンスも感じられる。誰もが持つセックスについての悩みや葛藤を、リアルにじめじめと描くのではなく大げさに拡張してみせるから、ここには笑いが生まれるわけだ。例えば「ペニスが自分の言うことを聞いてくれない!」という悩みは男なら誰もが味わったことがあるはず。それをそのまんま絵にすると、この映画のバッツとデカチン君の関係になる。フロイト言う男性の「去勢恐怖」をそのまま絵にしたようなエピソードも爆笑もの。朝起きたら自分のペニスがないことに気づいたバッツが、布団や枕をひっくり返してペニスを探し回る姿には大笑い。しかしこれは、男性なら子供の頃に一度は持ったことのある「恐怖」の絵解きになっているのだ。
自らを進化した新しい人類と称し、男漁りと殺戮と子殺しを繰り返すジェニファーの姿は、フェミニズムが生み出した新しい女性像のパロディかもしれない。しかしその彼女が昔恋した男にこっぴどい振られ方をしていて、それがセックスにまつわるトラウマになっているという設定も痛快。性にまつわる引け目が、彼女を性にまつわる過激な行動に駆り立てているわけだ。
ジェニファーとバッツの出会いは龍虎相まみえる最終決戦の予感を漂わせるが(まるで『ゴジラ対キングギドラ』みたいな世界)、そこで女は最後まで自分の性をコントロールし、男はそれを見失う。映画の作り手たちには女性恐怖があるようだ。
(原題:Bad Biology)
DVD:バッド・バイオロジー/狂った性器ども
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