1998年11月。ロシアの宇宙ステーション・アルマズと地上管制センターとの交信が途絶え、軌道を離れたアルマズはその4日後に大気圏に突入して爆発炎上、乗員全員が死亡するという悲劇が起きた。ロシア当局は大規模な破片の回収作業を行ったが、アルマズ最後の様子を記録したブラックボックスはロシア当局が回収する以前にウクライナの反政府過激派グループの手に渡った。彼らが破損の激しいデータを修復し、当局の隠蔽する事実を世に問うため発表したのが本作『アルマズ・プロジェクト』だ。(原題は『アルマズのブラックボックス』となっている。)宇宙ステーション内部は随所に監視用のカメラが備え付けられており、撮影された映像と音声がすべてハードディスクに記録されていた。映像は膨大な量になるが、今回発表されたのはそのうちの1時間半弱だ。
映画としては『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』以降数多く作られた「なんちゃってドキュメンタリー」の一種だが(『ブレア・ウィッチ〜』以前にも同様の映画はたくさんあるけど)、この映画の面白さは宇宙ステーションの監視カメラという固定された視点を主としていることかもしれない。テレビの「お宝映像スペシャル」で紹介される、「監視カメラが偶然撮影したコンビニ強盗の顛末」とか「ビデオショップに突入してくる自動車」などの映像を、いわば意図的に作っているわけだ。これは結構面白いアイデア。
ただしそれだけでは映像作品として持たないと判断したのだろう。劇中には手持ちカメラを持った乗員がいて、出来事の一部始終をそれで撮影しているという設定になっている。そして監視カメラの映像と手持ちカメラの映像をつないで、切り返しやクロースアップなどの表現を行っているのだ。これが劇的な効果を生み出している反面、監視カメラの絶対的な客観映像というコンセプトを弱めてしまった。結局は『ブレア・ウィッチ〜』の手持ちブレブレ映像に戻って、監視カメラの映像は場面全体を撮影するマスターショットでしかないのだ。なぜ監視カメラ映像だけで全体を構成できなかったのか。それは映像の弱さをカバーできるだけの強いドラマを作れなかったからだ。話が弱いから、映像や音でそれを補おうとする。しかし映像や音に手を加えれば加えるほど、それは無造作に撮りっぱなしにした生素材のニオイを失っていく。作為が目立って、ドキュメンタリー風の演出と食い違ってきてしまうのだ。
「結局何が起きたのかはわかりませんでした」というのも、この映画が『ブレア・ウィッチ〜』から引き継いだものだ。しかし日常に隣接した郊外の森に得体の知れない何かがあるからこそ、観客にとってそれが恐怖になり得るのではないだろうか。宇宙ステーションの内部なんて、観客にとっては最初から非日常だ。よくわからない世界でよくわからない事件が起きても、それがどうしたって言うの?
(原題:Almaz Black Box)
DVD:アルマズ・プロジェクト
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