台湾人生

2009/05/12 映画美学校第2試写室
台湾日本語世代の老人たちが語る日本への複雑な思い。
愛憎入り交じる証言の中に台湾現代史が見える。by K. Hattori

 1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)までの足かけ51年間、台湾は日本の植民地だった。日本は台湾にインフラを整備し、教育を施し、子供たちには日本語による日本式の教育を行った。そのためこの時代に教育を受けた人たちは、日本人と同じぐらい流暢に日本語を話し、読み書きすることができる。50年といえば、昔の人のほぼ一生に匹敵する年月だ。この間に生まれ育った人たちは、自分たちを台湾生まれの日本人だと考えていた。戦争が終わって60年以上たつが、台湾には日本語で日本人として教育を受けた人たちがまだ大勢生き残っている。この映画は、そうした「日本語を話す台湾人」たちについてのドキュメンタリーだ。

 台湾の日本語世代がおおむね親日だということは以前から知識として知っていたが、この映画を観ると歴史に裏打ちされた日本への思いの切実さが伝わってくる。彼らにとって日本は、なかば祖国であり母国なのだ。彼らは日本統治時代に自分たちが受けた教育を誇りにしている。日本のおかげで、今の台湾や自分たちの暮らしがあるのだと考えている。しかしそれだけに、日本に対する思いは複雑なものにならざるを得ない。彼らは統治時代の教育で徹底して「愛国心」を植え付けられた。だが彼らの祖国であったはずの日本は、戦争に負けると同時に彼らを切り捨てた。皇軍の兵士として日本人と共に戦場で戦い、戦場に散った人たちにすら、日本政府はその後何の保障もしない。ねぎらいの言葉もなければ、謝罪の言葉もない。彼らは祖国に捨てられて国際社会の中で孤児になり、その後「同胞」と称する国民党政府に蹂躙された。

 日本語世代の台湾人は、日本に親しみを持っている。日本を愛していると言ってもいい。しかし恨みも持っている。それは親に捨てられた子供が、親を愛しながら憎むのに似ている。台湾の少数民族出身の男性が、映画の終盤で「私たちは日本に対して言いたいことはたくさんある。でも言わないだけ。普段はバカになったふりをしてるけどね、心の中にはいろいろある」と涙ぐみ声を震わせるシーンは胸に迫る。台湾の親日というのは、単なる「日本大好き!」ではあり得ないのだ。

 しかしこうした日本への恨み言は、映画のスパイスだ。この映画にはそれ以上に、日本語世代の人々の「日本語」に対する誇りと愛着が描かれている。普段あまり使わない日本語を、同窓会や同世代の交流会で堂々と使える嬉しさ。それを取材しているカメラに向かって「私は日本語プロペラです!」と言ってしまうおじいさんのチャーミングなこと!

 統治時代に日本人教師から受けた恩義をずっと忘れず、今も毎年墓参りを欠かさない老人の話など、観ていて感動で泣けてきてしまう。彼の孫娘が日本語を勉強しているのだが、「我が家で日本語を引き継いでくれる人が現れた」と本当に嬉しそうに語る姿にまた泣ける。身近な国である台湾を知るためにも、多くの日本人に観てほしい作品だ。

6月27日公開予定 ポレポレ東中野
配給:太秦株式会社
2008年|1時間21分|日本|カラー|スタンダード
関連ホームページ:http://www.taiwan-jinsei.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:台湾人生
関連DVD:酒井充子監督
関連書籍:台湾関連
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