群青

愛が沈んだ海の色

2009/05/08 20世紀フォックス試写室
長澤まさみと佐々木蔵之介が親子を演じるラブストーリー。
中川陽介監督が描く暗く光る沖縄。by K. Hattori

 デビュー作『青い魚』以来、沖縄を舞台にした映画を撮り続けている中川陽介監督の新作は、那覇の北西58キロにある渡名喜島が舞台のラブストーリー。長澤まさみ、佐々木蔵之介、福士誠治、田中美里など、映画やテレビでお馴染みの顔ぶれを揃え、20世紀フォックス配給で全国公開という、中川監督の映画としてはこれまでになくメジャーな作品になっている。

 同じ島で育った同い年の3人の若者たちの物語だ。島一番のウミンチュ(漁師)龍二の一人娘として、父の手ひとつで育てられた涼子は、幼なじみのウミンチュ・一也と相思相愛の仲となり結婚の約束をする。ふたりの幼なじみでやはり涼子に思いを寄せていた大介は、親友の一也が涼子と結ばれたことを素直に祝福できぬまま島を去る。一方、龍二に涼子との結婚を認めてもらいたい一也は、自分が一人前の男であることを証明するため、深い海底から宝石サンゴを採ってくることを決意。しかし無理をしすぎて死んでしまう。それから一年。島には大介が戻ってきた……。

 この映画に出てくる沖縄の風景は、観光パンフレットに載っているような、昔ながらの沖縄らしさを保っている。青い海、白い砂浜、赤瓦の民家、美しい珊瑚礁。しかしその美しさとは裏腹に、そこには暗い物語が展開するのだ。「沖縄=癒しの島」という方程式は、ここで最初から否定されてしまう。文字通りの「癒し」を求めて島に来た東京のピアニストは、島で病気を再発させて死んでしまう。島で生きる決意をした若者は、生活の糧を与えてくれる豊かな海に飲み込まれて死ぬ。死んだ若者の父親も、やはり海で死んでいる。恋人を失った少女は狂気に陥り、彼女を恋い慕う少年は死んだ親友への嫉妬に身を焦がす。島の人々が集う居酒屋の主人は、音楽家を目指して一度は島を出たが挫折して舞い戻ってきた過去を持つ。小さな島の小さく閉じた人間関係の中に、おびただしい死の記憶と、挫折と、後悔と、嫉妬が渦巻いている。

 中川監督の映画としては、これまでとは少し毛色の違う作品だ。観光ガイドなどにはあまり取り上げられない路地裏の風景など、地元で生活する人たちの生活空間としての沖縄を描いてきた監督が、今回は観光客がイメージする「いかにも沖縄な風景」を取り上げているからだ。しかしその「いかにも沖縄な風景」に、死と挫折と嫉妬の暗いドラマを重ねていくのが中川監督らしさかもしれない。物語は全体として「死と再生」を描いているものの、「再生」は言い訳程度に軽く扱われているだけだ。作り手としてはここでもっと盛り上がると考えたのかもしれないが、僕はこの結末が取って付けたような予定調和に見えて仕方なかった。こう終わらせるのが娯楽映画の約束なので、とりあえずはそちらに物語の水を向けただけではないだろうか。

 一也を演じた良知真次はこれが映画デビュー作。存在感があって今後が楽しみな新人だ。

6月27日公開予定 有楽町スバル座ほか全国ロードショー
配給:20世紀フォックス映画 宣伝:スキップ
2009年|1時間59分|日本|カラー|シネマスコープ|DTS STEREO
関連ホームページ:http://www.gunjou.com
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:群青/愛が沈んだ海の色
サントラCD:群青/愛が沈んだ海の色
主題歌「星が咲いたよ」収録CD:畠山美由紀 ベスト(仮)
原作:群青(宮木あや子)
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