天使と悪魔

2009/05/07 有楽町朝日ホール
『ダ・ヴィンチ・コード』に続くラングドン教授シリーズ第2弾。
前作よりタイトでスピーディな展開。by K. Hattori

天使と悪魔 オリジナル・サウンドトラック  ダン・ブラウンの原作をロン・ハワードが監督した、『ダ・ヴィンチ・コード』に続く宗教象徴学者ロバート・ラングドン教授シリーズ第2弾。『ダ・ヴィンチ〜』ではシオン修道会といういささかマイナーな秘密結社(近年捏造されたものという説もある)が登場したが、今回の映画ではイルミナティという歴史上実在した秘密結社が登場する。前作では「キリストに隠された秘密」のためカトリック教会と対立することになったラングドンが、今回はカトリック教会の総本山バチカンで起きた連続殺人と恐るべきテロ計画を阻止するという筋立て。物語の舞台がバチカンを含めたローマ中心部に限定されたことで空間的な広がりは制限されているが、1時間ごとに起きる予告殺人をどう阻止するかというタイムリミットのスリルを加えたことでドラマは白熱。ローマ市内を自由自在に動き回るラングドンと、システィーナ礼拝堂で行われる厳粛な教皇選挙(コンクラーベ)のコントラストも映画の面白さにつながっている。

 歴史上実在したイルミナティについてはよくわからない点も多いのだが、映画ではこれを再定義。教会の伝統的な教えより科学を優先しようとして弾圧された知的エリートたちが地下に潜伏し、教皇選挙の混乱に乗じてキリスト教の権威を粉砕しようとする……という物語に仕立てている。キリスト教の権威であるバチカンと、科学を信奉する無神論グループの暴力的な対立。「宗教と科学」は今もなお進化論や生命倫理を巡って対立を続ける現代的なテーマであり、映画の中でも両者の反目や一致について、なかなか味のある台詞がいくつか出てくる。バチカンの若い司祭が主人公に「あなたは神を信じていますか?」と尋ねるシーンや、同じ司祭が世界中から集まった枢機卿たち相手に宗教と科学の対話を訴えるシーンは感動的ですらある。しかし映画を最後まで観れば、こうした問題がそうそう一筋縄では行かないことも明らかなのだ。どれほど開明的で進歩的な考え方を持っている人も、これだけは決して譲れない一線というものがあるし、それは同じキリスト教の内部であっても位置にかなりの相違があるものだ。

 物語は主人公ラングドン教授が宗教象徴学の知識を生かして謎を解明していくというミステリーだが、前作『ダ・ヴィンチ・コード』同様この映画でも謎解きよりアクションが優先されている。映画という表現の制約上これはやむを得ない部分もあるのだが、あまりにも短時間で主人公が次々に謎を解明してしまうと、物語を展開する上での「障害」や「葛藤」が事実上なくなって、主人公の人物像が薄っぺらになってしまう。この映画はそれをトム・ハンクスという俳優の魅力で補っているわけだが、それでも映画の中のラングドン教授はあまり魅力的な人物には見えないのが残念。原作は今年中にも3作目が出るようだけど、さて映画はどうなるか……。

(原題:Angels & Demons)

5月15日公開予定 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2009年|2時間18分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://angel-demon.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:天使と悪魔
サントラCD:天使と悪魔
サントラCD:Angels & Demons
原作:天使と悪魔(ダン・ブラウン)
原作洋書: Angels and Demons (Dan Brown)
前作DVD:ダ・ヴィンチ・コード(2006)
関連DVD:ロン・ハワード監督
関連DVD:トム・ハンクス
関連DVD:ユアン・マクレガー
関連DVD:アイェレット・ゾラー
関連DVD:ステラン・スカルスガルド
関連DVD:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ
関連DVD:ニコライ・リー・コス
関連DVD:アーミン・ミューラー=スタール
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