60歳のラブレター

2009/04/16 松竹試写室
好評の応募企画をもとに映画化された大人のラブストーリー。
3組のカップル、それぞれの愛の行方。by K. Hattori

candy  人生の節目にあたる60歳前後を迎えた3組のカップルを主人公に、第二の人生を共に歩む「伴侶」とは何なのかを考えさせる大人のラブストーリー。住友信託銀行が毎年行っている応募企画「60歳のラブレター」が原案で、企画としては団塊世代の大人のカップルに向けた作品といったところか。しかしこの映画、すごく若々しくてフレッシュな印象なのだ。脚本は『ALWAYS 三丁目の夕日』や『キサラギ』の古沢良太で、1973年生まれで映画製作時に35歳。監督は1976年生まれで32歳の深川栄洋。彼らはどちらかというと、映画の主人公たちの子供世代。映画の中には「子供の目から見た主人公たち」という視点もあって、これがじつによく描けている。母親に積極的に離婚を勧める娘のキャラクターが、いやみなく日常の実感を伴って描かれているのには感心した。

 というわけで、主人公たち家族の描写はかなり上手く行っていると思うし、エピソードによってはとても感動的だ。彼らが自分自身を語るモノローグも効果的だし、その挿入テンポや分量が映画全体の良いアクセントになっている。出演している俳優たちもじつに豪華。中村雅俊はへんなタイミングで息子が事件を起こし、ワイドショーに引っ張り出されてしまったが、むしろそれが「かつての青春スターも30過ぎの息子を持つ年齢になったのだなぁ」という感慨を抱かせているのは皮肉なものだ。井上順は今回ものすごくいい。これだけのタレント性とキャラクターを持っている人が、あまり映画に出ていないのは日本映画の大損失だと思わせさえする内容。イッセー尾形は上手すぎるのが欠点だったりするのだが、今回は本格的な映画出演は初めてという綾戸智恵の荒削りだがダイナミックな芝居をしなやかに受け止めている。原田美枝子と戸田恵子もさすがベテランという存在感。

 そんなわけで主人公一家の物語には満足できるのだが、この映画の欠点は彼らにからむ脇の人物に魅力がないことだ。特に物語の軸になる中村雅俊・原田美枝子夫婦にからむ、原沙知絵と石黒賢にキャラクターとしての掘り下げが欠けている。原沙知絵が演じている女性は、中村雅俊が30年連れ添った妻や家族を捨て、第二の人生の伴侶とするだけの魅力を兼ね備えているだろうか? 彼女は中村雅俊のどこに魅力を感じて、彼を公私に渡るパートナーにしようと考えたのだろうか? ふたりの仕事上の関係は映画の中で比較的丁寧に描かれるが、私生活でのふたりの関係がよくわからない。石黒賢扮するベストセラー作家も、原田美枝子のどこに惹かれたのかがわからない。

 こうした脇の人物たちは、外国映画にもよく出てくる。しかしその人物のキャラクターがきちんと掘り下げられていないと、観客はこうした人物に共感もしないし反発も出来ない。この映画でふたりは、主人公夫婦によりを戻させるための便利な役回りを押しつけられているだけだ。

5月16日公開予定 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:松竹
2009年|2時間9分|日本|カラー|ビスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.roku-love.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:60歳のラブレター
サントラCD:60歳のラブレター
主題歌CD:candy(森山良子)
原案: 夫から妻へ、妻から夫へ60歳のラブレター
ノベライズ:60歳のラブレター
関連DVD:深川栄洋監督
関連DVD:中村雅俊
関連DVD:原田美枝子
関連DVD:井上順
関連DVD:戸田恵子
関連DVD:イッセー尾形
関連DVD:綾戸智恵
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