中国の戦国時代。国を接する燕と趙は戦いを繰り返し、その中で燕の国王は敵の矢に倒れる。王から後継者に指名されたのは将軍の雪虎だが、王の甥である胡覇とその側近たちはこれに納得しない。このままでは後継争いで国が分裂する。一計を案じた雪虎は後任指名を辞退し、王位を王女の燕飛児に託して自分はそれを補佐すると宣言。だが胡覇一派は実力で王位を奪うべく、刺客を雇って王女を襲撃する。それを助けたのが、森で隠遁生活を送る段蘭泉という男。ふたりの間には淡い愛情の交流が生まれるが、王女留守中に胡覇たちはクーデターを起こして国を乗っ取ってしまう。王宮を脱した雪虎は王女を守るため、蘭泉に遠くへ逃げるよう告げるのだが……。
『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』の監督であり、チャウ・シンチーの『少林サッカー』やチャン・イーモウの『HERO』『LOVERS』などの作品で武術指導を担当したチン・シウトン監督の新作。主演はドニー・イェン、ケリー・チャン、レオン・ライという香港映画の大ベテラン3人で、豪華な衣装や趣向を凝らした美術、膨大な数の人馬が繰り広げる合戦シーン、主人公たちが刺客たちと戦うシーンで見られるアクロバティックな立ち回りなど、見どころ満載のアクション大作になっている。ダイナミックなアクションシーンを随所に散りばめながらも、物語の中心は「一人の女と二人の男」という古典的なラブストーリー。作品の方向性としては、チン・シウトンが『HERO』や『LOVERS』の世界を自分でもやってみた……というところだろうか。ただしチャン・イーモウが作品の絵画的な様式美に大きく作品を傾けているとすれば、チン・シウトンはもう少しリアルなアクションの比重を大きくしているので、作品の印象はだいぶ違ったものになってはいる。
その違いが大きく際立っているのは、例えばドニー・イェン扮する雪虎将軍が数百人の敵を相手に鬼神ごとき戦いぶりを見せるクライマックスシーンだろう。ここにも様式美は存在するのだが、それを上回って放たれる人間の「熱量」のようなものが、映画を観ている者の気持ちを嫌がおうにもかき立てる。髪を振り乱しながら、なりふり構わず戦い続ける雪虎に、映画を観ている者の気持ちが引きつけられてしまうのだ。映画の中にはほかにも大金をかけていそうな派手なアクションシーンが多数あるのだが、僕自身はこの雪虎の孤独な戦いにもっとも感動させられた。
一応史実にもある国名などを持ちだしているものの、中身は史実と関係のないおとぎ話。『レッドクリフ』で「三国志」の教養主義にすっかり毒され堅くなってしまった頭をリフレッシュさせる、いい意味での反教養主義・反史実主義と言えそうだ。ドニー・イェンは才気走ったところが嫌味なナルシズムに見えたものだが、今回の映画は「できるけど一歩引く男」でとても良い。ケリー・チャンは相変わらず美人。レオン・ライは貫禄だ。
(原題:江山美人 An Empress and the Warriors)
DVD:エンプレス/運命の戦い
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