「楽しいか、楽しくないかと言えば、楽しくは……ない」「悲しいか、悲しくないかと言えば、悲しくは……ない」。歯医者の受付で働くアコの日常は、そんな倦怠感の中にある。具体的に何か大きな問題を抱えているわけではないし、具体的に何かやりたいことがあるわけでもない。だから今いるこの場所から動けない。そこが心地いいわけではないのに、今いるこの場所に何となく停滞してしまっている。
出会う男たちと次々深い関係になる不感症のヒロインが、賭けダーツで男たちをきりきり舞いさせて大金を稼ぐというのが映画の筋立て。おそらくこの設定から、スリル満点の痛快娯楽活劇を作ることも可能だろう。ダーツの世界で自らの才能に目覚めたヒロインが、ダーツの世界でライバルたちとしのぎを削りながらより高みを目指すという、少年ジャンプ的なアクション映画にするのは簡単そうではないか。しかしこの映画は、作り手にそもそもそうした発想があったのかなかったのか不明ながら、そうしたわかりやすい展開にならないのだ。
ヒロインは入り浸っているダーツバーで飲み代を稼ぐためだけに、男性客相手の賭けダーツに精を出す。ところが彼女は凄腕なので、一度コテンパンに負けた客はもう二度と彼女と勝負しようとしない。彼女が賭けダーツで稼ぎ続けるには、時には小さく負けて客をいい気分にさせたり、他のダーツバーまで遠征して新規の客を開拓しなければならないはずなのだ。ところが彼女は同じダーツバーから動くことがないし、相手を常に木っ端微塵に打ち破ってしまう。要するに彼女は、ハスラーとしてダーツの腕で生きていくつもりなんてない。彼女はとりあえずその場でビールが飲めればいいだけ。賭けダーツで稼いで家賃を払おうとすら考えない。ダーツバーで大金を手にしている一方で、彼女は家賃を何ヶ月も滞納させている。
ヒロインが自らは動き出さないため、映画を観ていても彼女を応援したい気分にはさせられない。そもそも彼女は、誰かに自分を後押しされることすら拒んでいるように見える。ダーツバーのママがまるで彼女の相手をしてくれないのも、彼女と接するのはそれが一番の方法だからかもしれない。そうなると彼女を抱いた男たちがあっという間に去ってしまうのもまた、彼女自身の選んだことだのだと解釈することだってできるはずだ。「不感症」というのは、セックスで彼女が感じないということだけじゃない。彼女は自分自身のすべてについて「不感症」なのだ。
ぜんぜん応援したくないヒロインではあるが、そのキャラクターにはリアリティがある。毎日の生活に不満もなく、かといって希望も見出せないまま日々の出来事に流されていくがままの彼女に、僕は少しばかり共感してしまうのだ。彼女が最後に「やる気まんまん」で動き出せるのは、彼女自身が「ここではないどこか」を切望していたからだと思う。先に何があるかはわからない。でも何とかなるよ!
DVD:オンナゴコロ
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