ロルナの祈り

2008/12/18 京橋テアトル試写室
国籍取得のため麻薬中毒の青年と偽装結婚したヒロイン。
それは愛だったのだろうか? by K. Hattori

 『ロゼッタ』と『ある子供』でカンヌ映画祭のパルムドール(最高賞)を受賞している、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督(ダルデンヌ兄弟)の新作。ベルギー国籍を取得するため麻薬中毒患者と偽装結婚したアルバニア人女性のロルナが、結婚を機に麻薬から足を洗おうとする偽の夫クローディにほだされて、何とか彼を更生させようとする。だがロルナの偽装結婚はその前提として、結婚相手が麻薬の過剰摂取で死ぬことを織り込んでいた。偽装結婚を仲介したブローカーは彼女が国籍取得後未亡人になったら、すぐにでも別の外国人と偽装結婚させて仲介料を取る計画になっているのだ。

 ダルデンヌ兄弟は『イゴールの約束』以来、ずっと「子供」を主人公に映画を撮っている。『息子のまなざし』は少し変化球だが、それでも「子供」を巡る物語であることは間違いない。だが今回の映画は「子供」が登場しないのだ。少なくともここには、社会的な責任から免除される未成年はいない。登場人物たちはそれぞれが自分の人生を生きる大人たちだ。ただしクローディを演じたジェレミー・レニエが過去に『イゴールの約束』や『ある子供』といったダルデンヌ兄弟作品で「子供」を演じていた延長で、この映画の中のレニエもまだ「子供」なのだという解釈はあり得るだろう。彼は肉体的には麻薬に依存し、精神的にはロルナに依存する、社会的にまったく自立できない存在だ。

 それに比べてロルナはずっとしっかり者だ。故郷アルバニアを離れて自活した生活を送っているし、きちんとした仕事も持ち、貯金もし、将来の夢もあり、偽装結婚を仕切るブローカーとも正々堂々と交渉する度胸がある。何より違法な手段で国籍を手に入れる知恵も身につけている。世の中がきれい事だけではないことを、十分に知っているのだ。しかしそれなら彼女が「大人」なのかというと、それは違うのだ。彼女はまだ子供。しっかり者として振る舞ってはいるが、それは子供が大人ぶって無理な背伸びをしているような危うさを秘めている。彼女はそのことに、やがて気がつくことになる。

 彼女はこの映画の途中から、それまでとはまったく違う性格を持つヒロインとして行動し始める。おそらくこれは彼女が「大人になった」ということなのだろう。それは彼女が「愛」を知ったからだ。自分のために誰かを利用したり依存したりするのではなく、誰かのために生きることこそが、本当の愛……。彼女はクローディのために生きようと決意した。それが彼女に、映画の中でも最も劇的なひとつの行動を選択させた。しかしクローディは去ってしまう。残されたロルナは、別の「誰か」のために生きなければならない。彼女の体に起きた変化は、その象徴的な事件となっている。それが幻想でも構わない。人は自分ではない誰かのために生きることで、本当に生きることができるのだ。

(原題:Le Silence de Lorna)

1月31日公開 恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー
配給:ビターズ・エンド 宣伝:ムヴィオラ
2008年|1時間45分|ベルギー、フランス、イタリア|カラー|1:1.85|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://lorna.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ロルナの祈り
関連CD:アーティスト・チョイス・コレクション(ブレンデル)
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