ザ・ムーン

2008/12/12 アスミック・エース試写室
1967年〜1972年に実施されたアポロ計画のドキュメンタリー。
彼らだけが本当の「宇宙」を知っている。by K. Hattori

In the Shadow of the Moon (Full Sub Dol) [DVD] [Import]  1969年7月21日。この5日前に地球を飛び立ったアポロ11号のニール・アームストロング船長とパイロットのバズ・オルドリンは、着陸船で月面の「静かの海」に到着し、人類として初めて月面にその一歩を踏み出した。「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」というアームストロング船長の月面第一声は、月着陸の映像と共に地球に中継され、固唾をのんでこの様子を見守っていた全世界の人々を熱狂させたのだ。これはソ連との宇宙開発競争において、アメリカが圧倒的な勝利を収めた瞬間でもあった。アメリカはその後5回の有人月着陸を成功させ、のべ12人の人間が月面に足を降ろすことになった。現時点で彼ら以外に、月面を踏んだ人間は存在しない。また地球の軌道を離れて宇宙を飛行した人間も、アポロ計画に参加した飛行士たちだけだ。アポロ宇宙船から見れば、スペースシャトルなどは地表スレスレを飛ぶ飛行機に毛が生えたようなものに過ぎないだろう。

 映画『ザ・ムーン』はアポロ計画に参加して現在も存命中の元パイロットたちのインタビューと、計画当時の貴重な映像や音声資料を再構成して、アポロ計画の全体像を描き出すドキュメンタリー映画だ。アポロ計画が実施されていたのは1967年(アポロ1号)から1972年(アポロ17号)までの5年間。計画に参加したのは1930年前後に生まれた軍のテストパイロットたちで、当時の年齢は30歳代の半ばから40歳に手が届くぐらいだった。鍛え上げられた肉体に精力がみなぎる男盛りのアメリカ人たちだ。だがそれから40年。彼らも今では70歳代になり、何人かのパイロットたちは既に故人となっている。今のこのタイミングを逃せば、このような映画に参加できる当事者の数はもっと減ってしまっただろう。

 映画にはアポロ11号のバズ・オルドリンやマイク・コリンズを始め、映画『アポロ13』でトム・ハンクスが演じたアポロ13号のジム・ラヴェル船長など、10人もの宇宙飛行士たちが参加してインタビューに答えている。しかしそこに姿を現さなかったのが、人類で初めて月面を踏みしめた男ニール・アームストロングだ。しかしその「不在」が、かえって彼のカリスマ性を際立たせているような気がする。他の飛行士たちが(言っちゃ悪いが)老いさらばえた現在の姿をカメラの前にさらしているのに対し、アームストロングだけは記録映像の中の溌剌とした若々しい姿なのだ。どんな時にも冷静沈着だったという彼のエピソードが他の飛行士仲間たちから語られるたびに、彼がこの映画に出演しなかったという「選択」もまた、彼やこの映画にとって最善のことであったような気がしてくる。

 アポロ計画の時代は、人類が科学技術の未来を信じていた時代だった。科学やテクノロジーの発達は人間を幸福にすると、無邪気に信じられる時代だった。アポロ計画の良さはそこにある。

(原題:In the Shadow of the Moon)

1月16日公開 TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
配給:アスミック・エース 宣伝協力:樂舎
2007年|1時間40分|イギリス|カラー|ヴィスタサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://themoon.asmik-ace.co.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ザ・ムーン
DVD (Amazon.com):In the Shadow of the Moon
サントラCD:ザ・ムーン
サントラCD:In the Shadow of the Moon
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