その日のまえに

2008/11/15 シネカノン有楽町2丁目(シアター2)
全編にみなぎる作り事の美学。これぞ大林ワールド。
重松清の同名小説を大林宣彦が映画化。by K. Hattori

その日のまえに (文春文庫 (し38-7))  ある日突然、愛する家族が余命わずかだと医者から宣告されたら? この物語はそんな問いかけに真剣に答えようとした、一組の夫婦の物語だ。

 原作は重松清の同名小説。誰でも容易に感情移入できるシリアスでシンプルで感動的な物語だから、誰が脚色して誰が監督しても、それなりにいい映画にはなっただろう。しかし今回はこれを、大林宣彦が監督しているというのがくせ者。脚本は大林監督と組んで傑作『異人たちとの夏』(原作は山田太一の小説)を作った市川森一。『異人たちとの夏』は片岡鶴太郎が俳優として大ブレイクした作品だったが、今回の映画ではナンちゃんこと南原清隆が主役に大抜擢されている。彼はこれまでにも俳優として何本かの映画に出ているが、これほど大きな役は今回が初めてではないだろうか。このあたりの顔ぶれを見るだけで、『異人たちとの夏』再び!という作り手のたくらみのようなものが見えてくる。

 しかしながら、そうそう簡単には行かないのが大林映画だ。今回の映画ではオープニングタイトルで、脚本・市川森一の名に続いて、撮影台本として大林宣彦と南柱根の名がクレジットされていることにただならぬ気配を感じた。撮影現場で監督が脚本を直してしまうことなど、映画の世界ではざらにあること。だからここでわざわざ「撮影台本」というタイトルを作って入れているということは、市川脚本に大林監督がかなり手を入れているという意味だろう。(南柱根は『なごり雪』や『転校生 さよならあなた』『22歳の別れ』などでも大林監督と組んでいる脚本家。)

 原作も市川版脚本も未読なので、この映画がどの程度原作に沿い、市川版の脚本に沿っているのかは判断しかねる。完成した映画はモロに大林ワールド全開で、大林監督の映画が好きな人には「も〜、たまらん!」という内容に仕上がっている。カット割り、合成などの画像処理、台詞回しなどが、いかにもチープな作り事めいているのも、もちろん大林監督のねらいだ。こうした虚構の積み重ねによって、映画の中には観客の付け入るすき間ができる。このすき間を観客が自分自身のイマジネーションで埋めていくことで、映画と観客の間には密接な共犯関係ができあがる。大林映画の魅力は、物語世界の構築に観客が荷担することで生まれる魅力かもしれない。大林映画は観客参加型なのだ。

 大林監督は時空を越えて生と死が交流する物語を、繰り返し映画のモチーフとして取り上げている。『異人たちとの夏』もそうだったし、『ふたり』『あした』『あの、夏の日〜とんでろじいちゃん』の新・尾道三部作もそうだった。この映画もそうした大林作品の流れに連なるものだ。しかしこの映画は、そうした過去の「生と死の物語」よりずっと楽観的でハッピーなもの。過去の作品では主人公たちがつかの間の死者との交流を経たあと永遠の別れを迎えることが多かったが、この映画では生者と死者との絆が途絶えることはないのだ。

11月1日公開予定 角川シネマ新宿、シネカノン有楽町2丁目ほか
配給:角川映画
2008年|2時間20分|日本|カラー|ビスタサイズ|DTS、ステレオ
関連ホームページ:http://www.sonohi.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:その日のまえに
原作:その日のまえに(重松清)
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