CM音楽の作曲をしているゲリーは、同棲中の恋人ドーラとの関係が最近どうもチグハグになっている。同じ部屋で一緒に暮らしながら、心がすれ違っている感じなのだ。そんな彼の前に、彼の人生を一変させる運命の恋人が現れる。彼女の名はアンナ。美人でセクシー、しかも一途にゲリーを愛してくれる彼女は、まさに理想の恋人。ただし問題は、彼女がゲリーの夢に出てくるだけの存在だということ。夜ごと夢の中で逢瀬を重ねるアンナにゲリーは夢中になるが、そのことがますますドーラとの関係を損ねてしまう。しかしある日街を歩いていたゲリーは、バスに張り出された広告でアンナの姿を見かけて衝撃を受ける。アンナは現実のCMモデルだったのだ!
グウィネス・パルトロウの実弟、ジェイク・パルトロウの長編デビュー作。人物ドキュメンタリー風のインタビュー画面で始まり、主人公の数奇な運命を語っていくという構成。夢の中で出会った女と現実の恋人、さらには現実に存在した夢の女そっくりの美女との間で翻弄され続ける主人公の姿は、荘子の「胡蝶の夢」にも似た古典的モチーフ。しかしこれが哲学的なムードに走らず、ひたすら実利的な方向を目指すあたりがアメリカ人の感覚なのだろうか。夢の女アンナにうり二つのモデルが、アンナとはまるで別人格の赤の他人という筋立ては、そんなの当たり前といえば当たり前なのだが、映画を観ている側の期待を見事に裏切ってしまう。夢はあくまでも夢。現実は情け容赦のない現実。現実が情け容赦のないものであればあるほど、主人公は夢と知りつつ夢の中にのめり込んでいく。
ニューヨークを舞台に、風采の上がらない中年文化人が恋人や友人たちと仕事や恋愛についてゴチャゴチャややこしいことになる……という筋立ては、ウディ・アレンの影響を強く受けたものだと思う。主人公を演じるマーティン・フリーマンが最も冴えない風体で、共演にグウィネス・パルトロウ、ペネロペ・クルス、ダニー・デビートなどの大物をずらりと並べてくるのも、ウディ・アレン風の配役センスかもしれない。ただしこの映画がアレン作品と大きく異なるのは、皮肉なユーモアが自虐的な堂々巡りのユーモアにならず、単なる主人公いじめに見えてしまうことかもしれない。
夢の中のシーンがもっとゴージャスで魅力的になると、夢に逃避する主人公の気持ちにより感情移入できたのに……、とも思う。主人公にとって夢は「もうひとつの現実」であるはずなのに、現実の生々しさに比べるとやはり存在感が希薄なのだ。夢と現実の狭間で揺れ動く男の話としては、ダニー・ケイの『虹を掴む男』など古典的な作品がいくつかある。現実を凌駕する夢の世界を表現するのに、ペネロペ・クルスひとりに頼るのではなく、もう一工夫ほしかったと思う。最後のオチは、ちょっとありきたり。でもインタビューで構成されたエピローグがほろ苦くて良い。
(原題:The Good Night)
DVD:恋愛上手になるために
DVD (Amazon.com):The Good Night サントラCD:The Good Night 関連DVD:ジェイク・パルトロウ 関連DVD:ペネロペ・クルス 関連DVD:マーティン・フリーマン 関連DVD:グウィネス・パルトロウ 関連DVD:ダニー・デビート 関連DVD:サイモン・ペグ 関連DVD:マイケル・ガンボン |