闇の子供たち

2008/06/18 映画美学校第1試写室
幼児売春や臓器売買の犠牲になるタイの子供たち。
梁石日の小説を阪本順治が映画化。by K. Hattori

 大手新聞社のバンコク支局記者として長年タイで暮らしている南部は、東京本社から一件の調査を依頼されて情報を探り始める。それは近々タイで行われる日本人少年の心臓移植手術で、ドナーと患者との間に違法な臓器売買が行われているという疑惑だった。しかし調査を始めてみると、ドナーは事故や病気で脳死状態になったわけではなく、人身売買で集められた健康なタイ人の子供らしい。心臓病の日本人を助けるため、健康なタイ人の心臓が高値で売買されているのだ。同じ頃、タイのNGOで貧困地域の子供たちを援助する活動に参加した音羽恵子は、貧民街から売春組織に売り渡された少女の救出活動に参加するのだが……。

 「この話はどこまでが現実なのか?」と話題になった、梁石日の同名小説を映画化している。「どこまで現実か?」という点には脚本を書いた阪本監督本人もかなり悩んだようだが、ネットで検索すればわかる通り、ここに描かれている事柄はほとんどが実話にもとづいていると考えて間違いない。少なくとも幼児売春についてはほぼ現実そのもの。臓器売買については、噂されているさまざまな疑惑をもとにした、現実にかなり近いフィクションといったところだろうか。

 映画では幼児売春と臓器売買のふたつを平行して描いていくが、映画でも中心になるのは幼児売春の側だ。幼児売春の話だけならそこにいくら日本人が介在していようと、観客のほとんどは「これはロリコンのヘンタイ野郎の問題で自分には関係ない」と言えるだろう。だが臓器売買の話はそうではない。ここに登場する日本人夫婦は子供を愛するごく平凡な家庭人であり、我が子の命を救うためなら自分の命さえも投げ出して構わないと考える善良で愛情深い父親や母親なのだ。でも彼らは、自分の子供のため犠牲にされる他国の小さな命にはまったく関心を払わない。

 臓器売買のエピソードは、タイの子供たちが置かれた残酷な現実に対して、日本人が無関係ではないことを示すパイプの役割を果たしている。この夫婦の姿は、途上国の子供たちが置かれてる過酷な現実から目を背ける日本人の象徴なのだ。人間は赤の他人の痛みに、いくらでも鈍感になれる。この夫婦はもちろん病気の子供を抱えるという特殊な事情を持っているわけだが、そうでなくても、日本人は他国の子供たちの不幸にどれだけ同情したり、哀れんだりすることができるだろうか。日本で同じように幼児売春や臓器売買の犠牲になる子供がいれば、多くの日本人は怒り、憤り、犯罪者に極刑をと叫ぶに違いない。でも同じことがタイで行われていれば、それは見て見ぬふり、知らんぷりなのだ。

 映画には子供を農村から買い付けて客に斡旋する男が出てくるが、彼もまた人身売買の犠牲者だったことが示される。彼が抱え込んでいる途方もない怒りと憎悪と嫌悪感の中に、この映画の作り手たちの気持ちが投影されている。

7月公開予定 シネマライズほか
配給:ゴー・シネマ 宣伝:樂舎、mmaison こども bureau
2008年|2時間18分|日本|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.yami-kodomo.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:闇の子供たち
原作:闇の子供たち (幻冬舎文庫)
闇の子供たち
主題歌「現代東京奇譚」収録CD:ダーリン(初回限定盤)
主題歌「現代東京奇譚」収録CD:ダーリン
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