相棒-劇場版-

 絶体絶命!42.195km 東京ビッグシティマラソン

2008/06/04 楽天地シネマズ錦糸町(スクリーン1)
人気テレビドラマの劇場版は映画館でも大ヒット。
でも内容には釈然としない。by K. Hattori

相棒-劇場版-オリジナルサウンドトラック  2000年から単発ドラマやシリーズとしてテレビ朝日系で放送されている、水谷豊と寺脇康文主演の人気刑事ドラマ「相棒」の劇場版。ドラマ版はまったく見ていないのだが、僕は『踊る大捜査線』もドラマ版をまったく見ないまま映画版を楽しんでいたので、今回も大丈夫だろうと踏んで劇場へ出かけた。人物設定その他はおそらくドラマ版でお馴染みの顔ぶれやエピソードが多いのだろうし、その点について「不自然だ」などと言っても仕方がない。今回はそうした部分にはなるべく目をつぶって、1本のサスペンスミステリー映画として観ることにした。

 しかし映画を観終えた印象は、なんだか困ったものなのだ。映画前半のチェスを使った犯人との駆け引きは面白かったが、チェスのアイデアそのものは映画の途中で放り出されてしまう。犯人はあっけなく逮捕されて、終盤はその犯行動機を巡る真相追求劇だ。しかしこれが、まるで面白くないし、映画を観てもまったく納得できないものだった。

 映画の中には中南米の某国で日本人のボランティア青年がテロ組織に誘拐され、日本の政府やマスコミがこの青年の行動を自業自得だと非難するというエピソードが出てくる。これはイラクで起きた日本人誘拐事件や、その後に同じイラクで起きた香田証生さんの誘拐殺害事件を下敷きにしていることは明らかだ。映画に登場する犯人は殺された青年と親しい人物で、青年を批判攻撃したマスコミや政治家への復讐として犯行を繰り返すという設定。しかし僕はこの設定に疑問を感じるのだ。ここでは青年の死の責任はどこにあるのかという話と、誘拐された青年を非難した者の責任はどれほどのものかという別の話が、無理矢理に混同されているように思える。

 数人の被害者を出した連続猟奇殺人事件の犯人は、主人公たちに同情されるだけ同情され、最後まで法の処罰を受けることがない。殺されたボランティア青年は映画の中で「聖者」のように描かれ、それを冒涜し、見捨てた日本人こそ死に値するということだろうか。少なくともこの映画の中では、そうらしい。犯人がいかに辛かったか、いかに苦しい思いをしたか、いかに口惜しく苦い気持ちを味わったのか。それを強調することで、この映画は犯人による連続猟奇殺人を帳消しにしてしまう。

 犯人側の動機にいかに同情の余地があったとしても、それが殺人を正当化するようでは刑事ドラマは成り立たないではないか。殺人をゲームのように進行させ、遺体に演出を施す犯人は、間違いなく自らの行為を楽しんでいる。その異様さや異常さを、映画は「なかったこと」にしてしまうのだ。チェスの名手でもある主人公を対局しながら巧みに誘導し、投了した棋譜の形で地図を暗示させるほどの頭脳を持つ犯人だ。主人公たちが最後の最後まで、犯人の手のひらの上で踊らされていた可能性だってあるんじゃないの?

5月1日公開 丸の内TOEI1ほか全国東映系
配給:東映
2008年|1時間57分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.aibou-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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