歯科医として人並み以上の成功を収めながら、なぜか付き合う女性とはうまく行かないチャーリー。親密な交際をする女性ができても、なかなかその先には進めないのだ。別れた元カノたちは次々に幸せな結婚をして行き、いつしか彼の周辺では「チャーリーとセックスすると運命の男性に出会える!」というまことしやかな噂話が語られ始める。彼のもとには「運命の男性」を求める女性たちから、一夜限りのデートの誘いがひっきりなしに舞い込むようになる。でもそれって結局は、チャーリー本人を恋愛対象としては考えていないってこと? チャーリー自身は「運命の男性」にはなれないんだろうか? そんな時、チャーリーはドジで間抜けでとびきり魅力的な女性キャムに出会う。
話の基本的なアイデアは面白いのに、それを最終的な脚本に仕上げる段階でちぐはぐな内容になってしまった映画だと思う。大小様々なギャグが詰め込まれているので時にクスクス、場合によってはゲラゲラと笑ってしまうのだが、その笑いは上っ面のもので、物語のテーマと深く結びつく深い笑いにはなっていない。この映画のギャグはファレリー兄弟の作品(『メリーに首ったけ』や『愛しのローズマリー』など)を意識しているようにも思えるのだが、ファレリー作品のギャグばかりを表面的に真似ても悪趣味でグロテスクになるばかりなのだ。
僕は主人公のチャーリーにまったく共感できなかったし同情もできなかったのだが、それは彼の態度に不誠実なものを感じてしまうからだ。彼が自分の能力にまつわる噂を利用して、女性たちと次々関係を持つのは構わない。でもそれは、キャムと付き合うまでのことだろう。キャムと付き合いだしたら、他の女性からの誘いはきっぱりと断るべきなのだ。これは僕自身がそうした真面目な男女交際をしているという意味ではなく、そうしなければ主人公が観客一般の支持と共感を得られないであろうという意味。その上で、チャーリーが女性の誘いをきっぱり断ろうとしても、結局はあの手この手の誘惑や泣き落としに負けてしまうというのはアリだろうし、そのことで彼が自己嫌悪に陥ったり、キャムにバレやしないかとひやひやするという展開もアリだろう。でもどんな理由であれ、キャムと付き合いながら自らの意志で積極的に他の女性と関係を持つのは映画として許されないと思う。
恋愛映画としては、チャーリーがキャムに惹かれた理由がよくわからず、キャムがチャーリーに惹かれる理由もよくわからない。キャムのドジ話は中盤以降もギャグに使えるのにそうしていないし、チャーリーの常軌を逸した行動も唐突すぎて映画を観ていてる側すら戸惑ってしまうほどだ。要するにキャラクターに一貫性がない。主人公周辺の人物たちも、もう少し掘り下げると話に厚みが出るだろうに……。
アイデアは面白い。それだけに、雑な仕上げがもったいない。
(原題:Good Luck Chuck)