NEXT ネクスト

2008/01/23 GAGA試写室
P・K・ディックの小説にアイデアを借りたスリラー映画。
2分先の未来を見通す男が主人公。by K. Hattori

 『ブレードランナー』や『マイノリティ・リポート』の原作者でもあるフィリップ・K・ディックの短編小説「ゴールデン・マン」を、ニコラス・ケイジ主演で映画化したサスペンス・アクション映画。ラスベガスのホテルでマジックショーをしているクリス・ジョンソンは、人には言えない特殊な能力の持ち主。彼には2分先までの未来が正確に予知できるのだ。だが彼はその能力を使い古された「千里眼」の奇術に仕立てて、ベガスのホテルで酔客相手のショーで生計を立てている。目立たぬようにひっそりと生きる。それがクリスの身に着けた処世術なのだ。だがアメリカに核テロリストが侵入し、FBIはテロリスト摘発の手段としてクリスの能力に目を付けるのだった……。

 ディックの原作では予知能力者を来るべき新たな人類=ミュータントとして描いていて、人類とミュータントの対立や葛藤、ミュータント側のサバイバル戦術が物語の大きなテーマだった。しかしそれを映画化した本作では、原作が持っていた「人類の未来を誰が担うのか?」というテーマは消え去り、ミュータントが身に着けている「2分先の未来が読める」という能力のアイデアだけを借りているのだ。ただし未来予知能力を使って絶体絶命の危機を回避する主人公の姿は、原作の描写をよく再現していると思う。カジノで警備員たちの追跡を振り切り、列車に衝突するスレスレで踏切を突破し、最後は至近距離から発射されたテロリストの弾丸さえかわす主人公の姿には思わずニヤリ。無限に分岐していく未来の中から最良の選択肢を選び、主人公がサバイバルしていく姿はじつに面白い。自分の得る利益のために、あえてその場で不利に思われる選択をするというエピソードも原作にあったものだ。

 ただし僕はこの映画に、重要な欺瞞と手抜きを感じてしまう。主人公が2分先の未来までしか観られないという制約を使いこなせず、安易にそれ以降の未来まで主人公にみせてしまう脚本が疑問なのだ。主人公に恋愛をさせるのは構わないし、主人公が彼女を守るため自分の能力を使おうとするのもいい。でもそこで使われる能力は、あくまでも「2分後の未来」に限定してほしかった。

 この映画のアイデアが、ディックの原作にある「2分先まで見える未来予知」から出発したことは間違いない。しかし主人公の能力を「2分」という制約に縛り付け、なおかつスター主演のアクション映画に仕上げるためのアイデアが、この映画の作り手たちには思い浮かばなかったのだ。持ち出してきたのは外国から持ち込まれた核爆弾という、これまでハリウッドで何度も使われてきたアイデア。しかしこの爆弾が何のために持ち込まれ、テロリストたちにどんな目的があるのかという点は不問にされている。ここでは核テロリズムが、主人公が巻き込まれる国家的危機や陰謀の記号にしかなっていないのだ。これでは敵に魅力がなく、主人公も引き立たないではないか。

(原題:Next)

GW公開予定 丸の内プラぜールほか全国松竹東急系
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2007年|1時間35分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、デジタル
関連ホームページ:http://next-movie.gyao.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:NEXT ネクスト
DVD (Amazon.com):Next
サントラCD:Next
原作:ゴールデン・マン(ディック傑作集3)
原作洋書:Golden Man (Philip K. Dick)
DVD:リー・タマホリ監督
DVD:ニコラス・ケイジ
DVD:ジュリアン・ムーア
DVD:ジェシカ・ビール
DVD:トーマス・クレッチマン
DVD:トリー・キトルズ
DVD:ピーター・フォーク
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