誰かを待ちながら

2007/10/16 映画美学校第1試写室
カフェを経営する中年男と若い娼婦の交流。
フランス田舎町の空気が伝わってくる。by K. Hattori

 小さな町でカフェを経営しているルイは、常連の女性客やバイトの女の子にセクハラまがいのちょっかいを出しては顰蹙を買うバツイチの中年男。目下独り身のルイには、家族や友人たちにも秘密にしているサビーヌという若い愛人がいる。もっともこれは、ルイが彼女にとっての愛人のひとりという割り切った関係。サビーヌは娼婦で、ルイはその常連客のひとりなのだ。ところがある日、サビーヌが約束の時間に現れないまま姿を消してしまう。いったい彼女の身に何が起きたのだろうか……。

 物語はルイとサビーヌの関係を中心にして、ルイの妹アニエスと夫の関係や、街に戻ってきた若い青年ステファンの謎めいた行動などを同時進行させる。グランドホテル形式と呼ぶにしては時間の縛りがルーズなので、これは緩やかにまとまったオムニバス映画とでも表現すべきかもしれない。3つの物語はそれぞれ、別れる男女、別れそうな男女、別れてしまった男女のドラマになっている。男女関係の、現在・過去・未来だ。3つの物語はそれぞれ持ち味も異なっていて、ルイとサビーヌの物語は切ないラブストーリー、アニエスと夫の物語は平凡な日常に潜む閉塞感を描く心理的密室のドラマ、ステファンのエピソードは彼の行動の先が読めないサスペンス・スリラーだ。

 中心になっているのはルイとサビーヌの物語だし、この物語が一番きめ細やかに描き込まれているから、ルイを下品なセクハラオヤジだと思いつつも、ついつい彼に肩入れしてしまうのは仕方がない。娼婦と客というルイとサビーヌの微妙な距離感は、友だち以上恋人未満の高校生カップルみたいで、観ていてつい優しい気持ちになってしまうのだ。ルイはサビーヌに対し、かなり特別な感情を持っている。サビーヌもそんなルイの気持ちを知っていて、彼との関係に安らぎを感じている部分もある。サビーヌが「今日は散歩をしよう」と言って、ルイがそれに応じるエピソードがいい。初めての客に暴力を振るわれたサビーヌが、ルイの店に逃げ込んでくる場面もいい。ふたりの関係は、もはやセックスだけじゃないのだ。

 姿を消したサビーヌを、ルイが懸命に探す場面も観ていて悲しかった。ふたりが利用していたホテルやカフェに出かけても、誰もサビーヌの行方を知らない。それどころか、サビーヌのことを憶えていない者さえいる。個人で細々と客を取っている若い娼婦のことなど、世間はまったく見向きもしていない。ルイもサビーヌも、社会の中ではゴミクズみたいな存在なのだ。でもそんなゴミクズみたいな人間の中にも、美しいものはたくさんある。

 この映画に流れるテーマのひとつが「別れ」だとすれば、最後の最後に現れるもうひとつのテーマは「出会い」であるはずだ。映画に突然現れ、突然去っていく黒い犬はそのシンボル。犬を連れた女がルイの店に入っていくラストシーンからは、また新しい出会いが始まっている。

(原題:J'attends quelqu'un)

第20回東京国際映画祭 コンペディション部門出品作品
配給:未定
2007年|1時間36分|フランス|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=21
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:誰かを待ちながら
関連DVD:ジェローム・ボネル監督
関連DVD:エマニュエル・ドゥヴォス
関連DVD:ジャン=ピエール・ダルッサン
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