北京の恋

四郎探母

2007/10/10 松竹試写室
京劇の勉強で北京を訪れた日本人少女が若い役者と恋に落ちるが……。
こういう映画には暗い気持ちにさせられる。by K. Hattori

 橋本梔子(しこ)は祖父の影響で子供の頃から京劇に興味を持ち、単身北京にやってきた日本人の女の子。祖父のチャット仲間である元京劇役者の何(ホー)宅に押しかけ、京劇院で本場の京劇を学ぶのが今回の旅の目的だ。梔子の扱いに困り果てた何だったが、彼をもっと当惑させることが起きる。役者修業を放り出して8年も音沙汰のなかった息子の鳴(ミン)が、再び役者になる決心を固めて家に戻ってきたのだ。やがて梔子と鳴は京劇役者の勉強を通して急接近し、互いに好意を持つようになる。日本人を嫌っていた何も梔子にはつい気を許し、息子との中を祝福しようという気持ちになっていく。ところがそんなある日、梔子の祖父から届いた1通のメールが、何の家に集まる人々の気持ちをズタズタに引き裂いてしまう……。

 京劇を支える役者たちの世界を、京劇好きの日本人女性の視点から描いたドラマとして面白く観ることが出来るのだが、物語や映画の出来自体はあまり感心するところがなかった。8年も芝居の勉強を放り出していた鳴が、あっという間に舞台に復帰してしまうというのがあまりに不自然。何の家の中をウロウロしているだけの梔子が、いつどこでどんな役者修業をしているのかもよくわからない。映画の中に役者たちの「生活」は描かれているのだが、ここには役者という「仕事」がほとんど何も描かれていないのだ。役者修業の実態とか、役者と裏方を含めた舞台裏の人間関係などをもっと濃密に描くと、京劇の世界を描いたバックステージものとして、もっと面白い映画になったと思う。

 この映画のテーマは簡単に言ってしまえば「中日友好」だ。過去の戦争という不幸な時代が生み出した傷は、今も中国と日本の人々を苦しめている。しかし中国と日本の若い世代が、そうした不幸を乗り越えて結ばれていくならば、両国の関係は今後ますます発展して行くに違いない……、というのがこの映画のメッセージだろうか。ただしそのためには、いくつかの条件がある。映画に登場する梔子と祖父は、この映画の作り手たちが考える条件をクリアした「理想の日本人」なのだろう。

 劇中に文字やナレーションだけで登場する梔子の祖父というのは、かなりヘンな人物だ。しかし中国人、少なくともこの映画を作った人たちにとっては、こういう日本人こそが「望ましい日本人」なのだろうし、この人物の中に「望ましい日本の姿」が投影されているに違いない。梔子の祖父が最後の最後まで「文字」や「言葉」だけの存在で、映画の中にはついに最後まで姿を現さないというのが、この人物の「象徴性」を示していると思う。

 孫鉄(スン・ティエ)監督はテレビドラマの演出家出身らしいのだが、本作は映画作品としてかなり出来が悪い。ドラマの平板な演出を補うように音楽だけを盛り上げられても、観ていて白けてしまうのだ。

(原題:秋雨 Autumnal Rain)

11月公開予定 銀座シネパトス
配給:ワコー、フォーカスピクチャーズ
配給協力:グアパ・グアポ
2004年|1時間38分|中国|カラー|ヴィスタサイズ|ドルビーSR
関連ホームページ:http://pekingnokoi.jp/
DVD:北京の恋/四郎探母
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