『バンジージャンプする』のキム・デスン監督が、『春の日は過ぎゆく』や『オールド・ボーイ』のユ・ジテ主演で描く時を越えたラブストーリー。事故で亡くなった恋人のメッセージが、時空を越えて主人公のもとに届くというアイデアは『バンジージャンプする』にも相通じるところがあり、これはキム・デスン監督の好むモチーフなのかもしれない。ただし本作には超自然的な要素が入り込んでいるわけではなく、主人公と恋人をつなぐのは1冊のノートだ。
新人検事として毎日大忙しのヒョヌと、テレビ番組のディレクターをしているミンジュは婚約したばかり。新居の家具を選ぼうと待ち合わせをした日、ヒョヌは急な仕事で仕事場から出るのが遅れてしまう。外で待つというミンジュに、「外は暑いから先にデパートに行ってて」と言うヒョヌ。これがふたりにとって最後の会話になった。ようやく仕事を済ませてデパートに向かう彼の目の前で、デパートの建物が倒壊したのだ。瓦礫の中で必死にミンジュを探すヒョヌだが、彼女は二度と帰ってこなかった。それから10年。検事になったヒョヌのもとに、1冊のノートが届けられる。それはミンジュがヒョヌとの新婚旅行のために、事細かく計画を記したものだった。いまだ心の傷が癒えないヒョヌは、このノートを手に旅に出るのだった……。
恋人の残したノートに沿って旅をするというアイデアは、オーランド・ブルームとキルスティン・ダンストが主演した『エリザベスタウン』にもあったもの。よっとするとこの映画の作り手たちは、『エリザベスタウン』を参考にしながらこの映画を作ったのかもしれない。ただしふたつの映画には大きな違いがある。『エリザベスタウン』に登場するノートは恋人のもとへ主人公を連れて行く道しるべであり、最後には主人公と恋人が結ばれるというハッピーエンドが約束されていた。しかし『ノートに眠った願いごと』では、主人公の旅の終わりに恋人が待っていることはない。
映画に登場する風景はとても美しく、過去と現在の風景が交差していく構成は、ひとり現在を生きる主人公が過去の恋人と対話しているようにも見える。しかしこの現在と過去との交差は、構成としてはちょっとわかりにくいところもある。なぜそこに過去のシーンがインサートされるのか、そのシーンにどんな意味があるのか、そこに登場する人物の今と過去の風景が、物語の中でどう響き合っているのか。それがまだよく練られていないと感じる場面も多い。
この映画、そもそもあちこちわかりにくいところが多すぎる。ヒョヌはなぜ弁護士から検事になったのか。ノートはなぜ10年たってヒョヌに届けられることになったのか。ミンジュはいつノートを作ったのか。ヒョヌが現在追っている汚職事件の話は、物語全体の中でどんな意味を持っているのか。アイデアは面白いし映像も美しい作品だが、韓国映画にありがちな粗さが目立つのは残念。
(英題:Traces of Love)
DVD:ノートに眠った願いごと
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