ロンリーハート

2007/10/03 SPE試写室
1940年代にアメリカで起きた連続殺人事件を映画化。
同じ事件の3度目の映画化だ。by K. Hattori

 1940年代末のアメリカ。新聞の交際欄で知り合った未亡人を次々に殺し、金を奪う結婚詐欺殺人事件が発生した。犯人はレイモンド・フェルナンデスというハゲの小男と、彼のパートナーで巨漢の元看護婦マーサー・ベックの二人組。およそ風采のあがらないふたりは被害者の前で兄妹として振る舞っていたが、詐欺話が行き詰まると躊躇することなく被害者を手にかけた。殺されたのは少なくとも4人だが、実際にはもっと多いのではないかとも言われている。

 結婚詐欺話から始まり、それがこじれると殺してしまうという場当たり的な犯行は、連続殺人としてはじつにチンケで馬鹿げたもの。しかしそのチンケさゆえに、このふたりは映画人たちに愛され、事件はこれまでに2度映画化されている。最初の映画は70年製作の『ハネムーン・キラーズ』。2度目の映画は96年の『深紅の愛/DEEP CRIMSON(DVD題:ディープ・クリムゾン)』。本作『ロンリーハート』は、同事件の3度目の映画化だ。

 今回の映画の特徴は、物語をふたつの視点から同時進行的に描いていくことだ。ひとつは犯人であるレイとマーサの視点であり、もうひとつは彼らを追う刑事たちの視点だ。映画に登場するレイとマーサは実在の事件をほぼなぞっているが、後者の刑事たちは映画のオリジナルだろう。劇中ではジョン・トラボルタ扮する刑事が、妻を自殺死させているという設定。この映画では結婚したばかりの妻を殺す殺人者と、妻に死なれた刑事を対比させながら、人間が抱える孤独、愛、罪などの問題を浮き彫りにしていく。

 映画と実在の事件の大きな違いは、実際は100キロを超える巨漢だったマーサ・ベックを、メキシコ出身の美人女優サルマ・ハエックに演じさせていることだ。美人女優にマーサを演じさせるのが当初からの意図とは思えないのだが、結果としてはハエック演じるマーサは内面に巨大な暗黒を抱えたモンスターぶりを存分に発揮している。マーサは見た目も十分に美しく、頭脳も明晰な、まずまず非の打ち所がない女性だ。その彼女が、なぜか三流結婚詐欺師のレイに惚れ込み、彼と一緒に犯罪行脚をする中に生きる歓びを感じるようになる。なんとも不可解だ。しかしこの不可解さ、理不尽さこそが、この映画の恐ろしさなのだ。

 マーサの持つ不可解さは、トラボルタ扮するエルマーの妻がなぜ死んだのかという謎にも通じ合う。エルマーの妻は自殺をすることで、死の後もずっとエルマーを支配し振り回し続ける。人間は自分の理解できないものに恐怖し、それにひれ伏してしまうのだ。エルマーの妻の死の理由はついにわからず、マーサも心の闇を抱え込んだまま処刑される。最後に残るのは、黒々とした恐怖だけだ。それは亡霊のように人に付きまとうが、それでも人はそこから目を背けて今日を生きていくしかないのだろう。

(原題:Lonely Hearts)

11月10日公開予定 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 配給協力:アートポート
2006年|1時間47分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/lonelyhearts/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ロンリーハート
DVD (Amazon.com):Lonely Hearts
関連DVD:ハネムーン・キラーズ(1970)
関連DVD:ディープ・クリムゾン(1996)
関連DVD:トッド・ロビンソン監督
関連DVD:ジョン・トラボルタ (2)
関連DVD:ジェームズ・ガンドルフィーニ
関連DVD:ジャレッド・レト
関連DVD:サルマ・ハエック
関連DVD:ローラ・ダーン
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