ディテクティヴ

2007/09/22 サンプルビデオ
ジャン=クロード・ヴァン・ダムが悪徳警官を演じる異色作。
骨太で男臭いドラマは好印象。by K. Hattori

 ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演の刑事ドラマだが、いつも正義のヒーローを演じるヴァン・ダムが、麻薬に溺れ、情緒不安定で同僚たちの信頼を失い、家庭も崩壊している悪徳警官を演じているのが珍しい。物語の舞台はロサンゼルスでもニューヨークでもない、ルイジアナ州のニューオーリンズ。2005年にハリケーン・カトリーナで壊滅的な被害を受けたこの街が、翌年には見事に復興している様子がわかるのがまずは興味深い。映画を観ていると、ヴァン・ダム扮する主人公がこのニューオーリンズに似ていることに気づく。彼は映画の中盤で壊滅的なダメージを受け、そこから見事に立ち直るのだ。しかもそれまでのダーティなイメージを払拭して、クリーンな警官へと生まれ変わろうとする。

 映画は主人公のアンソニー・ストウが殺し屋に撃たれて瀕死の重傷を負い、半年間の昏睡状態に陥るところが折り返し点になる。映画はこのエピソードまでが、いわば第一部。そこでは主人公が、苦悩しながら周囲の人間関係をどんどん壊していく。かつての相棒に裏切られ、同僚の刑事を死なせ、仲間を密告して破滅させ、妻を寝取られ、自分自身は麻薬に溺れる。彼は元相棒だったキャラハンという男を捕らえるため必死なのだが、キャラハンが何者なのか、ストウとどんな関係にあるのかなどは、この第一部では観客に伏せられたままになっている。

 ストウはキャラハンの殺し屋に撃たれて意識不明になり、その間にキャラハンは暗黒街のライバルたちを蹴散らしてニューオーリンズの犯罪王へと成り上がる。やがてストウは目を覚ましてリハビリの日々。半年の昏睡中にすっかり麻薬も抜けてクリーンな体になったストウは、頭の中身もすっかりクリーンになって、完全に破壊し尽くされている自分と周囲の人間関係を立て直そうと努力する。だが一度壊れてしまった関係は、そう簡単に修復できるものではない。そこに見え隠れするキャラハンの影……。

 ストウとキャラハンの関係がどんなものなのか映画の最後まで伏せられているのだが、これは黒澤明的な「双子のモチーフ」のバリエーションだ。同じ境遇を共有するふたりの男が、一方は悪の道に進み、もう一方は善と正義の道を歩んで最後に激突する。ただしこの映画では、善と正義の道を歩んでいるはずの主人公が、とことん汚れていくというのがユニーク。善人が必ずしも善人らしく見えるわけではなく、悪人に見える人間が必ずしも悪ではないという真理がここにはある。

 主人公の生活がなぜかくも荒んだものになってしまったのかなど、映画を観ていてもわかりにくい部分は多々ある。しかしこの映画はそれを承知で、あえてそれを物語の外に放り出してしまう。荒れ果て汚れきった主人公と観客の出会いをまずは作り、その後は観客に主人公の過去を想像させるのだ。最近の映画にしては、ずいぶんと観客の目を信頼している作品だ。

(原題:Until Death)

9月29日公開予定 銀座シネパトスほか全国順次ロードショー
配給:アートポート
宣伝:ハル・メディア・ランチ、アートポート
2006年|1時間46分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.detective-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ディテクティヴ
DVD (Amazon.com):Until Death
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