沈黙のステルス

2007/08/29 SPE試写室
テロ組織に盗み出された最新鋭ステルス戦闘機を取り戻せ。
スティーヴン・セガール主演作。by K. Hattori

 スティーヴン・セガール主演の『沈黙シリーズ』最新作だが、原題は『Flight of fury(怒りの飛行)』で「沈黙」なんてまったく関係なし。まあ『沈黙シリーズ』というのは、日本の映画配給会社が寄ってたかってセガール主演映画に付けている判じ物みたいなもので、要はこのタイトルが付いていれば「S・セガール主演のアクション映画ですよ」という意味に過ぎない。そもそも『沈黙シリーズ』第1弾である『沈黙の戦艦』(1992年製作だからもう15年も前の映画なんですね)だって、原題は『Under Siege』だから『沈黙』なんて関係ないんだよね……。

 主演俳優の名前が入った映画というのは昔からかなりあるが、それらは『チャップリンの独裁者』だの『メル・ブルックスの大脱走』だの、名前の表記だけで結構文字数を食ってしまうものなのだ。その点『沈黙シリーズ』は、『沈黙の』というたった3文字で『スティーヴン・セガールの』というタイトルを4分の1に圧縮しているのだから大したもの。しかしそのおかげで、クストーとルイ・マルの海洋ドキュメンタリー『沈黙の世界』や、ジェシカ・ラングとグウィネス・パルトロウ主演のサスペンス映画『沈黙のジェラシー』までが、レンタルビデオ屋でセガール主演アクション映画と同じ棚に並んでしまう可能性はあるけれど……。

 訓練飛行中の最新鋭ステルス機がテロリストと内通していたテストパイロットに奪われ、セガール扮するベテランパイロットが軍の密命を受けてそれを奪還するというのが今回の物語。最新のステルス機能で完全な不可視状態になるはずの戦闘機が、衛星で追跡されてどこに格納されているかまでバレバレというのがそもそもヘンな話。テロリストがアメリカとヨーロッパに生物兵器を投下するという話が最後になって、生物兵器はどこに落下しても数日で世界中が死滅するという話になってしまうのも困った。そんなことなら最初からステルス戦闘機に積まず、アフガンでもどこでも、その場で自爆テロすりゃよかったんじゃないの?

 セガール主演映画に話のつじつまなど求めるのが野暮なのかもしれないが、じゃあ他にこの映画の何が見どころなのかというと、それがさっぱり見あたらない。戦闘機の飛行シーンは既存の資料映像を編集しただけだし、格闘系のアクションも一続きのアクションをカットで割りすぎて、肉体と肉体が火花を散らせる凄みに欠ける。そもそもセガールのアクションは合気道や太極拳ベースのゆったり流れるような体の動きが特徴なので、打撃や足技系のアクションになると見劣りする。それを補うためのカメラワークやカット割りなんだろうけど、これはカメラばかりがはしゃぎ回っているようにしか見えない。初期の映画ではセガールのアクションにも「本物の迫力」を感じたが、最近のセガール映画から伝わってくるのは、彼の本人の「やる気のなさ」だけではなかろうか。

(原題:Flight of fury)

10月27日公開予定 銀座シネパトス、天六ユウラク座
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
配給協力:メディアボックス
2007年|1時間38分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/oyaji-movie/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:沈黙のステルス
DVD (Amazon.com):Flight of Fury
関連DVD:ミヒャエル・ケウシュ監督
関連DVD:スティーヴン・セガール (2)
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