アリーナロマンス

2007/08/24 下北沢トリウッド
アイドルおたくの少年がクラスメイトの美少女と親しくなって……。
ユニークな素材を手堅くドラマ化。by K. Hattori

 実際にアイドルおたくだったという板垣英文監督が、アイドルの追っかけに熱中するおたくたちの生態と、その中で芽生える高校生カップルの淡い恋心を描いた青春映画。アイドルおたくの世界をリアルに描く前半から中盤にかけてが面白く、少年少女のぎこちないラブストーリーとしても秀逸。しかし監督自身が「アイドルおたくの夢を描いた」という終盤のエピソードは、やや言葉足らずでご都合主義の展開になってしまった。これは脚本の構成の問題などいろいろな事情が考えられはするのだが、一番の原因は取材不足だと思う。

 主人公たちがひたすらアイドルを追いかける中盤までは、おそらく監督自身の経験に裏打ちされているのであろう細部のリアルな描写が、物語に確固とした現実味を生み出していた。ところが主人公の少年が自分のガールフレンドをアイドルに仕立てていく終盤のエピソードは、いかにも頭で考えただけのアイデアで地に足が付いていない。少女の成功物語と対照的に転落していく少年の行動も、なぜ彼がそこまで足を踏み外してしまったのかがよくわからない。

 これは『マイ・フェア・レディ』や『スタア誕生』にあった、男が女性をスターの座に引っ張り上げるが、男は逆にダメになっていくというパターンのバリエーションなのだろう。でもこれはそうした古典をなぞっただけで、内部にドラマの必然性があまりないように思うのだ。映画の前半では少女が少年のファッションをアドバイスし、後半では逆に少年が少女にアドバイスする。映画前半では少女が援助交際で小遣い稼ぎをし、映画後半では少年が違法な小遣い稼ぎに手を出す。こうした対称形の物語構成が、後半ではかえってドラマの自然な流れを阻害してしまったかもしれない。

 映画はあちこちにぎこちない部分も残っているが、全体としては正攻法の演出で、真正面から主人公たちのドラマを描写していく。脚本の作りも、上記のような図式的なところはあるものの、おおむね定石通りと言えるだろう。「アイドルおたく」というモチーフ自体にあまり一般の馴染みがないはずなので、脚本や演出をわかりやすくするというのはよいことだと思う。一般の観客が知らない世界を映画で提示して、その中にドラマを織り込んでいくという主張は、伊丹十三や周防正行などの情報系エンタテインメント映画にも通じるものだ。この映画を観れば、アイドルおたくの世界がどういうものなのかが何となくわかるようになる。

 ただし伊丹作品や周防作品の強みは、準備段階での徹底した「取材」にあるのだと思う。しかし『アリーナロマンス』に取材力が不足していることは、前記した終盤のエピソードなどにも現れている。もし板垣監督が次の作品を撮るのなら、その際にはモチーフを徹底的に取材して、ドラマに十分な肉付けをしてほしいと思う。おそらく他の素材を映画にしても、ちゃんと面白い映画を撮れる力を持った監督だと思うしね。

9月下旬公開予定 下北沢トリウッド
配給:トリウッド
2007年|1時間7分|日本|カラー
関連ホームページ:http://arenaromance.blog75.fc2.com/
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