クレイジー・ストーン

〜翡翠狂騒曲〜

2007/06/18 映画美学校第2試写室
高価な翡翠を巡る、泥棒と素人警備員の熾烈な戦い。
なんともバタ臭い中国映画。by K. Hattori

 昨年の中国映画界で、最大のヒットとなった犯罪コメディ。四川省にある商工業都市・重慶を舞台に、強欲な男たちが間抜けなドタバタを繰り広げる。物語の背景にあるのは、現代中国の都市で進む再開発と、格差が開く一方の貧富の差。一方にはその日その日の生活にも事欠く庶民の暮らしがあり、もう一方には地上げや不動産投資で巨万の利益をむさぼる新興の億万長者がいる。映画の中にそうした社会のひずみやきしみが、誇張されているとはいえ取り込まれているのは面白い。また映画の演出に関して言えば、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』や『スナッチ』、『オーシャンズ11』や『ミッション:インポシブル』シリーズなど、ハリウッド製の犯罪映画やアクション映画の手法をそっくりパクっている描写も目に付く。中国人の映画監督も、ハリウッド映画を観ながら映画を作っているのだ。

 この映画で一番面白いのは導入部の人物紹介だろう。映画の主要人物たちがそれぞれ小さなエピソード付きで紹介されるのだが、それがちょっとずつ接点を持っていて、それだけで小さな閉じた世界になっているのがいい。そう、この映画の世界は、小さく閉じて自己完結しているのだ。だからそこに、一般的な社会常識などを求めてもあまり意味がない。超高価な宝石を警備するのに、警備員を雇う金が払えなくて素人が警備するという筋立ては、現実的に考えるとそんな馬鹿なことがあり得るはずがないのだ。宝石の見学料収入自体を担保にして、どこかから金を借りればいいんだからね。しかしこの映画で、そんなことを言っても始まらない。この映画が描き出す小さく閉じた世界では、そうした資本主義の理屈が通用しないというだけのこと。これはこれで、そういう映画なんだと割り切るしかない。

 ストーリー自体は古典的なお宝争奪戦で、高価な宝石があちこちの手に渡ったり、すり替えられたり、すり替えを知らずに盗み出されたりして、その周囲で大勢の人間が悲喜こもごものドタバタ喜劇を演じる。物語の主人公にあたる男は、宝石を守ることを命じられた警官上がりの警備係。私利私欲のために宝石を狙う男たちが取り巻く中で、彼だけが自分自身の義務と、潰れかけた工場の従業員たちのために命がけで働いている。要するに正義の味方なのだ。こうした「正義の男」が主人公になっているのが、現代の中国映画の限界なのかな〜という気もする。本当ならこの男も宝石獲得に欲を出してくれた方が、内面的な葛藤も大きくなるだろうし、場合によっては宝石のすり替えにも二重三重の取り違えが生じて、もっと物語が面白くなったと思う。

 もちろんそこそこ面白い映画ではあるのだが、社会道徳の規範が確固たるものとして守られている中国映画の世界に、香港アクション・コメディ映画のセンスをまぶし、ハリウッド映画のテイストを振りかけたような印象。ちょっとチグハグなんだよね。

(原題:瘋狂的石頭)

7月21日〜9月7日開催 「中国映画の全貌」にて公開
開催場所:K's cinema
宣伝:グアパ・グアポ
2006年|1時間45分|中国|カラー|ヴィスタ
関連ホームページ:http://www.ks-cinema.com/
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