魔笛

2007/06/06 ショウゲート(旧東芝エンタテインメント)試写室
モーツァルト最後のオペラをケネス・ブラナーが完全映画化。
デジタル映像技術とオペラの融合は見もの。by K. Hattori

 モーツァルトのオペラ「魔笛」を、ケネス・ブラナーが映画化したオペラ映画。原作はドイツ語のオペラで、世界中どのオペラハウスで上演するときもほとんどはドイツ語のまま上演するはずだが、映画は名作オペラを一般の人に親しみやすくする目的で台詞や歌を英語に訳している。(もっとも日本人にとって、英語だろうとドイツ語だろうと字幕で観なければならないのだから同じなんだけどね。)歌詞の英訳と脚色は、俳優でもあるスティーヴン・フライが担当。監督のブラナー共々、今回は映画には出演せず裏方に徹している。

 映画に出演しているのは、本物のオペラ歌手や声楽家、ミュージカル俳優ばかり。クラシック・ファンには馴染みの歌手がいるのかもしれないけれど、映画ファンにはお初にお目にかかる顔ぶればかりだ。しかし存在感のある個性的な面構えのキャストもいるので、あるいは今後、こうした中から映画俳優に転じる(あるいは歌手と俳優を兼業する)人が出てくるかもしれない。ザラストロ役のルネ・パーペなどは、俳優として活動してもまったくおかしくなさそうな素敵な面構えだ。

 僕自身はクラシック・ファンでもないし、「魔笛」も映画『アマデウス』に登場した初演の再現シーンぐらいしか観たことがないので、今回の映画が原作に比べてどうなのか、脚色がどのくらい斬新なのかはさっぱりわからない。シェイクスピアを大胆にアレンジしてしまうブラナーだから、モーツァルトを第一次世界大戦に移し替えるぐらいのことはするだろう。僕が面白いと思ったのは、そうしたストーリー上の工夫ではなく、映像処理の部分にある。例えば映画の導入部で、見渡す限りの草原から兵士たちの潜む最前線の塹壕にカメラが移動し、そこから塹壕づたいにカメラは後方に移動して、砲兵隊や軍楽隊の姿を映し出し、さらに大空を舞う航空部隊の大編隊にまでカメラが上昇していく。これがすべてワンカット。兵士の指先のクローズアップから、戦場全体を俯瞰する超ロングショットまで、カメラは自由自在に被写体との距離を変え、位置も地面すれすれから飛行機の視点まで変化する。おそらくこの場面が、映画の中でもっともダイナミックなスペクタクルになっているのではないだろうか。

 残念なのは、この映像的ダイナミックさとスペクタクルを映画が維持しきれていないことだ。歌手が歌い始めると、カメラは歌手のバストショットからフルショットまでの狭い範囲に押し込められ、映画導入部のダイナミズムはまったく失われてしまう。作りは普通の「オペラ映画」になってしまう。映画であることを目指した導入部の意気込みはどこへやら、物語の絵解きのために単調な絵作りが続くことになってしまう。

 ケネス・ブラナーはミュージカル映画に仕立てた『恋の骨折り損』もかなり悲惨な出来だったし、どうも音楽ものと相性が悪いみたいだな〜。

(原題:The Magic Flute)

7月14日公開予定 シャンテシネ、テアトルタイムズスクエア
配給:ショウゲート 宣伝協力:セテラ
2006年|2時間19分|イギリス、フランス|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.mateki.jp/
DVD:魔笛
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