女帝[エンペラー]

2007/05/16 GAGA試写室
シェイクスピアの「ハムレット」を古代中国に翻案したドラマ。
チャン・ツィイーはガートルードを演じる。by K. Hattori

 シェイクスピアの「ハムレット」を古代中国に翻案し、チャン・ツィイー主演で映画化した歴史ドラマ。てっきり彼女がハムレット役で「生きるべきか、死ぬべきか」をやるのかと思ったら、彼女は王子の母ガートルードの役回り。苦悩する王子ハムレット役はダニエル・ウーが演じており、新王クローディアス役に『活きる』のグォ・ヨウ、オフィーリア役には『ハリウッド・ホンコン』や『小さな中国のお針子』のジョウ・シュン、その父ポローニアスにベテランのマー・チウンウー、兄レイアーティーズにはこれがデビュー作のホァン・シャオミンという配役。

 この映画ではシェイクスピアの原作をただ古代中国に移し替えているだけでなく、チャン・ツィイー演じる王妃ワンと皇太子ウールアンが、血の繋がらない義理の母と息子に変更されている。しかもこのふたり、もともとは恋人同士だったという設定なのだ。「ハムレット」における王子と母の愛憎関係は、多分にマザコン的、あるいはエディプス・コンプレックス的、もっとあからさまに言えば近親相姦的なものなのだが、今回の映画ではそれをわかりやすい「男と女の関係」にしてしまうことで、王妃を間に挟んだ新帝と皇太子の三角関係ドラマを作り上げているわけだ。つまりこれはチャン・ツィイーをめぐる、甥と叔父の恋のさや当てなのだ。王妃はふたりの男性に愛され、ふたりの間で揺れ動き、目の前でふたりの男性が自滅していくのを見守る悲劇のヒロイン。大スターであるチャン・ツィイーにガートルード役を振った以上、この程度の原作変更はやむを得ないだろう。

 ただしこうした変更で割を食っているのは、原作で悲恋のヒロインを割り当てられていたオフィーリアだ。映画ではジョウ・シュン演じるチンニーの影がきわめて薄い。おそらくこれは、製作者たちにも気になったのだろう。彼女は原作を離れて、映画のクライマックスで大きな活躍をすることになる。これは意外性があって面白い。若手スター女優であるジョウ・シュンには、この程度の花を持たせてやらなければ観客だって納得はしない。

 映画の序盤は重厚な美術セットやサウンドの分厚い音楽に圧倒されて、これから大傑作を観られる予感と期待に胸躍らせた。ところがこの予感には、あっという間に暗雲がたれ込める。これはあまりの「重厚さ」が物語にのんびりムードをもたらした結果、恋愛ドラマのドキドキ感も、人間ドラマのひりひりするような緊迫感も失ってしまったように感じられてならない。個々のエピソードは悪くない。これだけの映画なのだから、ドラマに重々しさがあってもいいだろう。でもストーリー展開まで鈍重になる必要はない。

 ストーリーを活劇に徹すれば、映画はもっと面白くなったと思うのだが、豪華なスタッフとキャストを集めてシェイクスピア劇を映画化するという気負いが、この映画にもったいぶった大仰さを生み出してしまったのかもしれない。

(原題:夜宴 The Banquet)

6月2日公開予定 有楽座ほか全国東宝洋画系
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
2006年|2時間11分|中国、香港|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://jotei.gyao.jp/
DVD:女帝[エンペラー]
サントラCD:女帝[エンペラー]
ノベライズ:女帝エンペラー
原作:ハムレット(シェイクスピア)
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