蟲師

2007/02/23 メディアボックス試写室
大友克洋が漆原友紀の人気コミックを実写映画化。
映像は面白いが話がよくわからない。by K. Hattori

 『AKIRA』や『スチームボーイ』の大友克洋監督が、『ワールド・アパートメント・ホラー』以来15年ぶりに撮った実写映画。原作は漆原友紀の同名コミック。自身も世界的な漫画家である大友監督が、題材を他人のコミックに借りていかなる映像と物語の世界を紡ぎ出すかが見どころ。物語の舞台を今から百年ほど前、明治時代の日本の農村に置いているのがユニーク。これは時代劇だ。しかし登場人物の頭髪はざんぎりだし、明治日本には侍たちもいない。時代劇のトレードマークである、チョンマゲと刀が出てこないのだ。映画序盤で主人公の蟲師が庄屋の家に宿を借りる場面など、江戸の臭いを残しながら徐々に近代化していく明治日本の様子が感じられて面白い。村に引かれる電灯のエピソードなど、じつに雰囲気がある。ただしこうした「明治のにおい」が、映画後半になるとまったく存在意義を失ってしまうのは残念だ。

 物語の中には異なる2つの時間が流れていて、それが中盤以降でひとつにつながる仕掛け。オダギリジョー演じる主人公ギンコの過去が、少しずつ明らかになるミステリー仕立てだ。しかしこの物語はそもそも「蟲」や「蟲師」にまつわる世界観が特殊すぎて、映画を観ていても内容がいまひとつ理解できない。映画序盤で庄屋の女主人に蟲や蟲師の仕事について説明をする場面が用意されているし、大森南朋演じる虹郎という男に主人公が自分の過去や仕事について説明する場面もあるのだが、それでもやはり説明が咀嚼不足で消化不良を起こしているように思える。蒼井優演じる淡幽のエピソードで、ギンコの過去探しというストーリーが停滞してしまうのだ。映画はこの淡優のエピソードに劇的クライマックスがあり、その後のギンコの旅については尻切れトンボの印象のまま終わってしまう。

 人気コミックの映画化だし、テレビアニメ化もされている作品だから、そもそも物語の背景にある世界観ぐらいは飲み込んだ上でこの映画を観ればいいのだろう。おそらくこの映画を観る観客のほとんどは、コミック版なりアニメ版なりの「蟲師」を読んだり見たりした上で、その実写版がいかなるものかを確認するため劇場に足を運ぶに違いない。しかし、映画ってそんなもんなのか? 映画は映画で独立した作品として、その内容がしっかりと理解でき、楽しめなければ意味がないのではないかな。映画『蟲師』は確かに映像的に素晴らしい場面がたくさんある。でもそれが原作やアニメ版のファン向けの「実写化」だとすれば、それは映画作品という形を借りた「コスプレショー」になってしまう。

 映画『蟲師』のビジュアルイメージには、素晴らしいものがある。しかし映画『蟲師』は、1本の映画として自立していない。この映画は大友克洋という映像作家が作り出した、「蟲師」という作品の変奏曲なのだ。単なるコスプレにはなっていないが、映画作品としては弱い。

3月24日公開予定 渋谷東急ほか全国松竹東急系
配給:東芝エンタテインメント 宣伝:P2
2006年|2時間11分|日本|カラー|アメリカンヴィスタ|SRD
関連ホームページ:http://www.mushishi-movie.jp/
DVD:蟲師
サントラCD:蟲師
ノベライズ:小説蟲師
原作:蟲師(漆原友紀)
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