幸せのちから

2007/01/16 SPE試写室
才能と地道な努力でホームレスから億万長者になった男。
実話をもとにした父と子の物語。by K. Hattori

 1980年代初頭。クリス・ガードナーは医療検査機器のセールスマンとして、足を棒にしてあちこちの病院を駆け回っていた。しかし折から景気は停滞気味。高価な医療検査機器を購入しようとする病院は少ない。クリスの生活は困窮し、家計は妻のパート収入でまかなわれている状態だ。そんなある日のこと、クリスはフェラーリに乗ったビジネスマン風の男に声をかける。「仕事はなんだい? そうなるための秘訣は?」。男は株式仲介人だった。クリスは男の言葉に勇気を得て、証券会社の仲介人養成コースに応募する。強力なアピールが功を奏して、彼は見習いとして採用されることが決まったのだが……。

 無一文のホームレスから株式仲介人になり、やがて独立起業して億万長者になった男の実話を、ウィル・スミス主演で映画化したヒューマンドラマだ。しかしこの映画、ひとりの男が立身出世を遂げるサクセス・ストーリーにはなっていない。おそらくこの男のサクセスは、この映画が終わったところから始まるのだろう。映画に描かれているのは、主人公がギリギリの貧しい生活からさらに下へと転げ落ちていく様子。駅のトイレや教会の慈善宿舎に寝泊まりするホームレス生活と、その中でも希望を失わないバイタリティだ。原題の『The Pursuit of Happyness』は、アメリカの独立宣言に書かれている言葉で、意味は「幸福の追求」だ。この映画は主人公の「幸福」を描くのではなく、彼がひたすら「幸福の追求」に打ち込む姿を描く。

 物語は往年の名作映画『チャンプ』にも通じる、仕事を失い生活力のない父親と、それでも父親を慕う息子のドラマ。しかしこの映画では、主人公のクリス・ガードナーが、決して「ダメな父」とは描かれていない。実在のモデルが存在し、その人物は立志伝中の人物で、今は成功者としてお金持ちになっているのだから、完全なダメな父であるはずがないのはわかる。でも主人公の不遇をただ運の悪さや景気のせいにしているのでは、キャラクターに立体感が出てこないのではないだろうか。この映画は主人公を次々にピンチに追い込んで観客の興味を引きつけ、主演のウィル・スミスが持つスター俳優としての魅力で、主人公のキャラクターに陰影を付けている。しかしそれだけなのだ。この主人公に比べるとずっと出番は少ないものの、タンディ・ニュートン演じる妻のキャラクターのほうがずっと生々しくて、そこに生きている人間としてのリアリティを感じさせる。

 『幸せのちから』という邦題は『幸福の追求』という原題から少し離れているが、主人公を支え続けたのが「自分もいつか絶対に幸せになれる!」という信念だったことを考えると、これはこれでいいタイトル。『幸せのちから』とは、幸せになれることを信じる力のことなのだ。自分は絶対幸せになれるという楽観主義と、努力を惜しまない誠実な態度、そして家族への愛情に感動させられる。

(原題:The Pursuit of Happyness)

1月27日公開予定 日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2006年|1時間57分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/thepursuitofhappyness/
DVD:幸せのちから
サントラCD:幸せのちから
サントラCD:The Pursuit of Happyness
原作:幸せのちから(クリス・ガードナー)
原作洋書:The Pursuit of Happyness
関連DVD:ガブリエレ・ムッチーノ監督
関連DVD:ウィル・スミス
関連DVD:タンディ・ニュートン
関連DVD:ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス
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