サン・ジャックへの道

2006/11/28 松竹試写室
中世からの巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの道。
長い道のりが傷ついた現代人の心を癒す。by K. Hattori

 年老いた母が亡くなり、遺産管財人のもとに3人の子供たちが呼び寄せられる。会社経営者で経済的には恵まれているが、様々なストレスから心身共にぼろぼろ状態の長男ピエール。ゴリゴリの左翼教師である長女クララ。アル中でこれまで一度も定職にも就いたことがない末弟クロード。性格も暮らしぶりも違う3人は仲が悪く、お互い中年になった今ではほとんど連絡を取り合うことすらない他人同士だ。だが亡母の遺産を相続する条件は、3人がそろってサンティアゴ・デ・コンポステーラまで巡礼の旅をすることだった。3人は嫌々ながら、遺産目当てで巡礼ツアーに参加する羽目になる。フランス南西部の町ル・ピュイからスペイン西端のサンティアゴまで、1,500キロにわたる徒歩の旅だ。

 『赤ちゃんに乾杯!』や『女はみんな生きている』のコリーヌ・セロー監督最新作。映画に登場するサンティアゴ・デ・コンポステーラへの道は中世以来の有名な巡礼ルートで、沿道には中世以来の町や風景がそのまま残り、山あり谷ありの美しい景観は旅を進める中で刻々と変化していく。しかし金目当てで旅に参加した兄妹たちには、そんな風景はまるで目に入らない。21世紀の現代に、何で巡礼なんてしなくちゃならないの! しかしこの旅が、3人の関係を少しずつ変えていくことになるのだ。

 物語としてはロードムービーの一種であろうし、遺産相続のため主人公たちが難しい課題にチャレンジするというアイデアも古典的だ。仲の悪い兄妹が旅を始めた段階で、観客は彼らの最後は関係が改善することを予想し、期待し、事実その通りになる。こうした基本的な舞台装置や物語展開の中に、新しさはほとんど感じられない。でもこれは作り手の側が、あえてそうした古典的パターンをなぞっているのだろう。何しろ物語の舞台になるのは、中世以来の巡礼路なのだ。これでは舞台装置を新しくしようがないではないか。

 舞台装置や物語の展開は古典的だが、そこに盛り込まれているキャラクターや各エピソードのディテールは現代的だ。この映画は巡礼の旅を描いているのに、旅の一行の中にはそもそも敬虔なキリスト教徒などひとりもいない。無神論者やイスラム教徒も交えて、エッチラオッチラ旅をする人々は、現代フランスの縮図なのだ。そこには勝ち組もいれば負け組もいる。家族との確執がある。家庭崩壊がある。アルコールや薬物に依存している者がいる。移民や人種の問題がある。巡礼グループの旅を通して、普段の日常生活の中では見過ごされているこうした問題がくっきりと浮かび上がってくる。

 登場する子供たちが最初から生き生きしているのとは対照的に、大人たちは主人公たち3人組を含めてみんな駄目な人たちばかり。今の自分が大嫌いなくせに、自分で自分の生き方に縛られて身動きが取れなくなっている。でもこの映画は、そんな大人たちにも生き方を変えるチャンスがあることを教えてくれるのだ。

(原題:Saint-Jacques... La Mecque)

2007年陽春公開予定 シネスイッチ銀座
配給:クレスト・インターナショナル
2005年|1時間52分|フランス|カラー|ヴィスタ|ドルビーSRD、DTS
関連ホームページ:http://www.saintjacques.jp/
DVD:サン・ジャックへの道
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