めぐみ

引き裂かれた家族の30年

2006/10/30 GAGA試写室
娘めぐみさんを北朝鮮に拉致された横田夫妻の戦い。
原題は『拉致:横田めぐみ物語』。by K. Hattori

 北朝鮮の拉致被害者、横田めぐみさんとその家族についてのドキュメンタリー映画。2002年の小泉首相訪朝を機に、国際的にも大きな注目を浴びた拉致問題。中でも拉致されたとき13歳だった横田めぐみさんのケースは、北朝鮮による国家的犯罪の象徴として、その後もしばしばマスコミで大きく取り上げられ、国際的な注目を集めることにもなった。この映画はアメリカのドキュメンタリー作家、クリス・シェリダンとパティ・キムが監督したもの。製作は『ピアノ・レッスン』のジェーン・カンピオン。

 今から29年前の1977年11月15日。新潟市内に住む13歳の女子中学生・横田めぐみさんが、学校から帰宅する途中で忽然と姿を消した。家族や警察の必死の捜索にも関わらず、その行方はまったくわからない。事件や事故に巻き込まれたのか? 営利やいたずら目的の誘拐か? それとも何かの理由で、彼女は家出をしたのか? 家族の心に重いしこりを残したまま、年月だけが流れていく。そして20年後の1997年、彼女が北朝鮮の工作員に拉致されたという記事が新聞に掲載される。北朝鮮がこの拉致を認めたのは、それから5年後のこと。北朝鮮当局は、彼女が既に死亡したと日本側に伝えたのだが……。

 監督らは2002年の小泉首相訪朝のニュースで拉致事件の存在を知り、2004年から撮影をスタートしたという。横田夫妻やめぐみさんの弟、拉致被害者の家族のインタビューなど、2004年以降に新たに撮られた映像も多い。拉致現場を取材するシーンでは、拉致を再現するような短いイメージショットも挿入されている。しかし映画の大半を占めるのは、テレビ番組やニュース用に撮影された既存の映像だ。これらは我々日本人には馴染みの映像であるものがほとんどだが、中には「よくぞ探してきた!」という貴重なものもある。例えば「小川宏ショー」の家出人捜索番組。母親の横田早紀子さんがカメラに向かって娘に呼びかける場面は、めぐみさんがもはや日本にはおらず、この番組を見ることが決してなかったことを思うと、拉致事件の残酷さと非人間性をまざまざと感じさせる場面になっている。

 僕がこの映画でもっとも衝撃を受けたのは、映画に横田めぐみさんの肉声が登場したことだ。学校の合唱コンクールで歌われたシューマンの「流浪の民」。そのソロパートを歌っているのが、まだ小学生だっためぐみさん。これまで彼女の写真はマスコミで数多く紹介されてきたが、そこにいる彼女は常に無言だった。しかしちっぽけなカセットテープに録音されていた彼女の声は、そこにまぎれもなく、ひとりの少女が存在したことをリアルに感じさせる。この歌が録音されて間もなく、彼女は北朝鮮工作員に拉致されてしまった。彼女は異国の空の下で、一体何を思い、暮らしていたことだろう。『慣れし故郷を放たれて 夢に楽土を求めたり』。「流浪の民」で彼女が歌ったソロパートである。

(原題:ABDUCTION: The Megumi Yokota Story)

11月25日公開予定 シネマGAGA!、テアトルタイムズスクエア、銀座テアトルシネマほか
配給:ギャガ・コミュニケーションズ 宣伝:ギャガ宣伝【イチ】、デスペラード
2006年|1時間30分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|ステレオSR
関連ホームページ:http://megumi.gyao.jp/
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