ザ・マークスマン

2006/08/18 SPE試写室
チェチェンで起きた核テロを米軍が未然に防ごうとするが……。
清々しいくらいの超B級作だ。by K. Hattori

 チェチェンにある休眠中の原発が、国際テロリストたちに乗っ取られた。彼らの目的は、運転休止中の原発を再稼働させること。動き出した原発を暴走させたり破壊したりすれば、死者数十万という大規模な核テロになる。これを察知したアメリカは、ロシア情報筋と協力して運転再開前に原発を破壊する作戦を立て始めた。原子炉を安全にピンポイント爆撃するには、マーカー(誘導電波の発信機)を目標に取り付ける必要がある。アメリカ軍はペインターと呼ばれるベテランのマークスマンを、支援用の特殊部隊と共に現地近くに降下させるのだが……。

 ウェズリー・スナイプス主演の軍事アクション映画だが、正確には劇場用の「映画」ではなく、最初からビデオ市場向けに作られたアメリカ版Vシネマのような作品だ。主演のウェズリー・スナイプス以外は、ほとんどが無名のキャスティング。他の映画からフッテージを借りてそれらしい規模の映像に仕立ててはいるが、この借り物映像は画質がまったく違うので借り物だということがミエミエ。無名とはいえ役者はそれなりの芝居をしていて、アメリカ映画界の層の厚みを感じさせるが、物語は荒っぽくて強引、演出は紋切り型でいかにも芝居臭く、最初から最後までどうしようもなくB級のニオイを発散する作品になっている。

 しかしこの映画はこの内容でこの規模の作品という割り切りの中で、徹底してアリキタリなB級作品に仕上げてしまった潔さが感じられる。要するにこれは、インスタント食品の味わいなのだ。本物の味など最初から狙わず、最初からインスタント食品ならではの手軽さのみを追求している。フタを開けてお湯をかければ3分間で出来上がり。味はもちろん本物に比べれば落ちるかもしれないけれど、この手軽さは大きなメリットだ。それにこうしたジャンクフードにも、美味いとか不味いとかを超越した吸引力があるのは事実。誰だって年に何度が、カップ麺が猛烈に食べたくなるときがあるだろう。映画だって同じなのだ。映画ファンがいつもいつもA級の本格作品ばかり観たいわけではない。時には猛烈に、B級が観たくなることもある。本作はそんな映画ファンの欲求に、ダイレクトに応えてくれる作品と言えそうだ。

 ロシア人もアメリカ人もみんな英語で会話していることも、米軍がいきなりロシアの原発を空爆するという強引さも、空爆のために飛び出した米軍機が迎撃のミグを撃ち落としてしまうという理不尽も、理由はよくわからないがとりあえず仕掛けておいた第2ターゲットがまさに大当たりというご都合主義も、状況説明や心理描写をほとんど台詞に頼ってしまうお手軽さも、役者たちがカメラの前で大げさに見得を切るサイレント映画ばりの芝居も、すべてひっくるめてこの映画の魅力になっている。映画の最後に登場人物のひとりひとりがストップモーションで紹介されるのも、大げさすぎてつい笑ってしまった。

(原題:The Marksman)

9月16日公開予定 銀座シネパトス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2005年|1時間34分|アメリカ|カラー|サイズ|サウンド
関連ホームページ:http://blog.excite.co.jp/wesley-snipes/
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