幸福(しあわせ)のスイッチ!

2006/08/11 メディアボックス試写室
東京暮らしの娘が実家の電気店を手伝うことになるが……。
樹里とジュリーが親子を演じる。by K. Hattori

 東京のデザイン会社でイラストレーターの仕事を始めたばかりの怜は、自分のイラストにダメ出しされたことに腹を立てて会社を辞めてしまう。生活のためにも本当は会社に戻りたい怜だが、生来の意地っ張りで強情な性格が災いして素直になれない。そんな時、彼女のもとに和歌山の実家から急を知らせる手紙が届く。怜の姉が倒れて入院し、絶対安静の危険な状態だというのだ。だがあわてて飛んで帰った怜を病院の廊下で迎えたのは、当の姉本人。じつは入院しているのは、小さな電気店を営む姉妹の父親。父と折り合いが悪かった怜は父が入院しても帰って来ないと踏んだ妹が、姉が入院したと嘘の手紙を書いたのだ。とにもかくにもこうして実家に戻った怜は、父の留守中、大嫌いだった家業の電気店を手伝うことになってしまう……。

 『スウィングガールズ』の上野樹里がヒロインの次女・怜を演じ、長女の瞳を本上まなみ、姉妹の父親に沢田研二という豪華な配役。電気店の看板娘、三女の香を演じるのは、国民的美少女コンテスト出身の中村静香。僕は初めて知った顔なのだが、今後の活躍が期待できる逸材だ。いつも不貞腐れて文句ばかりの言っている怜と、いつも元気一杯で朗らかな香のコントラストは、この映画の中心になっていると言ってもいい。

 自分自身のことすらよくわかっていない幼いヒロインが、父親や家族、地域の人々との交流を通して、自分と社会との関わりについて学び大人になっていくという青春映画だ。ヒロインの怜には自分の夢がある。しかしその夢の実現のために不可欠な我慢や回り道を、容易に受け入れられないワガママで子供っぽいところがある。自分に正直で他人におもねらない性格とも言えるが、要は身勝手で自己中心的な振る舞いでもあるのだ。しかしこうした身勝手さを、怜は父親から受け継いでいる。父は「お客様が第一」をモットーに、儲からない修理やアフターサービスの仕事に入れあげて、家族に貧乏暮らしを強いてきた。周囲の迷惑や困惑を省みず、自分の信じる道を突っ走る。それが父と怜の共通点だ。

 最近はすっかり老け役が板についている沢田研二が、この映画でも小さな町で電気屋を営む名物オヤジを、存在感たっぷりに演じている。この役自体は、もっと別の地味な俳優に演じさせた方が「リアル」ではあったかもしれない。しかしそれでは、沢田研二演じる父親が持つ、規格外の底抜けぶりが伝わってこないし、物語の重要なエピソードになる浮気疑惑も面白味がなくなってしまう。映画を観る人はジュリーの昔のモテモテぶりを知っているから、彼が浮気したとなれば「あり得る!」と考える。しかし映画の中では彼がしょぼくれた中年オヤジなので、物語の中で姉妹たちは父の浮気をイメージすることができない。映画の中と外とで食い違う認識のギャップ。これはなかなか巧妙な仕掛けだ。

秋公開予定 テアトル新宿、テアトル梅田ほか
配給:東京テアトル
2006年|1時間45分|日本|カラー|ビスタ
関連ホームページ:http://www.shiawase-switch.com/
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