サムサッカー

2006/07/13 SPE試写室
今とは違う自分になりたい思春期の悩ましさ。
自分らしく生きるのは難しい。by K. Hattori

 17歳になっても親指しゃぶりの癖(サムサッキング)が止まらないジャスティンは、そのせいで家族の中でも手がかかる問題児扱いされている。学校でも家庭でも何となく行き止まり気分の漂う青春だが、そんな重圧も親指をチューチュー吸えば一気に解消。ジャスティンにとって親指しゃぶりは、大切な精神安定剤なのだ。ところがこのクスリには大きな副作用がある。それは歯並びが悪くなり、いつも歯医者のお世話になること。行きつけの歯科医ペリーは、「根本的な治療をしよう」と提案してジャスティンに催眠術をかけ、親指しゃぶりの癖をピタリと止めさせてしまった。身近な精神安定剤を失ったジャスティンはイライラして数々の問題行動を起こし、ついには学校でADHD(注意欠陥多動性障害)のレッテルを貼られてしまう。

 映画のテーマになっているのは「今とは違う別の自分になりたい」という、誰もが思春期に持つであろう変身願望だ。ジャスティンにとって、それは「親指しゃぶりをやめること」であり、「討論部のレベッカと仲よくなりたい」であり、「都会の大学に進学したい」でもある。それは大人と子供の中間でウロウロしているウットウシサを抜け出して、一足飛びに自由な大人になりたいという願いでもある。でもそこで、どんな大人になるのかが問題だ。現代の子供たちは、自分の両親や周囲の大人たちを、自分の進むべき道を示すロールモデルにすることができない。子供でいるのは勘弁してほしいが、かといってどんな大人になればいいのかサッパリわからないという不安と悩みが、この映画の基調になっている。

 主人公はこうした悩みを、ふたつの方法で解消しようとする。ひとつは大人と子供の中間から、子供時代に退行すること。その方法として出てくるのが、親指しゃぶりという癖だ。もうひとつの方法は、処方された抗鬱剤を飲んで、一気に大人へと成長してしまうこと。ジャスティンは薬の力を借りて、教師や親さえ論破する言葉の冴えを身につける。薬さえあれば、ジャスティンは大人たちと肩を並べることができるのだ。

 しかしこうした変身願望は、何も思春期の子供だけが持っているわけではない。テレビドラマの人気スターとデートすることを夢見る母親も、心理カウンセラーを気取る歯科医も、今ここにいる自分自身とは別の自分になりたいと考えている点ではまったく同じだ。誰も彼もが、今の自分ではない何かになりたいと思いつつ、その何かが何なのかわからないでいる。むしろこうした自分探しの問題は、大人の方が深刻なのかもしれない。

 子供には恋愛があり、セックスがあり、進学があり、家族からの独立がある。人生の通過儀礼とも言えるそれらを経験することで、子供は少なくとも「大人」になることができるのだ。でももうとっくの昔に大人になってしまっている大人は、これから先どうすればいいのだろうか……。

(原題:Thumbsucker)

今夏公開予定 シネマライズ系
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
宣伝協力:ファントム・フィルム
2005年|1時間36分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SRD、SR
関連ホームページ:http://www.sonypictures.jp/movies/thumbsucker/
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