ブレイブ ストーリー

2006/06/26 ワーナー試写室
運命を変えるため異世界に踏み込んだ少年の冒険。
上映時間があと少し欲しい。by K. Hattori

 宮部みゆきの同名小説を原作とする長編アニメ映画。絵柄がカワイイので子ども向けかと思うと、内容は結構シビアで大人が観てもドキリとさせられるはず。しかし文庫本で3巻になるボリュームを2時間弱の映画にまとめるのは骨が折れたようで、完成した映画の印象はちょっと窮屈。エピソードが常に駆け足で、観光地をバスツアーで一気に駆け抜けるような情緒のなさなのだ。異世界を逍遥するファンタジー映画のお楽しみは二の次にして、ストーリーだけがずんずん先に進んで行ってしまう。エピソードの点と点を最短距離の直線で結んで、どこにもアソビがない。

 僕はかつてこれと同じような映画を何度も観ている。それは劇場版の『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』だ。長いテレビシリーズを再編集して劇場映画に仕立て直した、劇場アニメブーム創成期の立役者たち。『ブレイブ ストーリー』はそうした映画に似ているのだ。全編が見せ場に継ぐ見せ場。クライマックスシーンの直後には、もう次のクライマックスシーンがやってくる。魅力的な登場人物たちが次々に登場しては退場し、退場した直後にまた現れる。これはこれで楽しい。しかし忙しくて仕方がない。

 これだけのエピソードを盛り込むなら、映画の長さにもう少し余裕が欲しい。そうすれば個々のエピソードにもう少し厚みと膨らみが出て、主人公の葛藤や成長もじっくり描けたと思う。この映画では時間の都合で省略処理されているところが多すぎる。省略しても話は十分にわかるのだが、わかればそれで構わないというものでもない。映画は「絵」で見せてこそ、観客をその世界に引き込むことができる。しかしその肝心の「絵」が省略されてしまうと、観ている方は頭で話を理解はしても、感情面で物語に入り込みにくくなってしまう。主人公が観ている風景。出会った人々。その場所の空気の匂い。そうした細かな部分の集積が、ロードムービー形式の映画には必要だと思う。

 省略してしまった結果、わかりにくくなってしまった部分もある。例えばイルダ帝国の扱いだ。イルダ帝国は暴力的に周囲の国々を侵略する悪の国のように描かれているが、この設定にどんな意味があるのか映画しか観ていない僕には理解しにくい。人物も出入りが煩雑。もう少し人物を整理した方が、映画としてはスッキリしたと思う。例えば「ピノキオ」の妖精のように、運命の女神を物語の序盤に出して主人公に世界のルールをレクチャーしてもいいはず。小説の設定はともかく、映画としてはその方がずっとコンパクトにまとまったはずなのだ。

 そもそも僕には、異世界と現実世界の関係がわからない。ミツルがふたつの世界を自由に行き来するように、ワタルにもそれが可能なのか? ミツルが現実世界で魔法を使えるなら、ワタルも現実世界で何かができるの? 最後のシーンの意味もわからない。やはり映画の随所で少しずつ時間が足りなくなっているようだ

7月8日公開予定 丸の内ルーブルほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース
2006年|1時間51分|日本|カラー|ビスタビジョン・サイズ|ドルビー・デジタル・サラウンドEX
関連ホームページ:http://www.bravestory.net/
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