ピンクパンサー

2006/05/16 楽天地シネマ錦糸町(シネマ2)
人気シリーズをスティーブ・マーティン主演でリメイク。
出演者は豪華だけれど……。by K. Hattori

 ピーター・セラーズの当たり役だったクルーゾー警部を、スティーブ・マーティンが演じる新しい『ピンクパンサー』(ナカグロなし!)。オリジナル版は1963年の『ピンクの豹』に始まり、セラーズの死後も93年まで全7作が作られる人気シリーズだった。今回はオリジナル版でハーバート・ロムが演じたドレフュスをケヴィン・クラインが演じているほか、ドレフュスに命じられてクルーゾーを見張るポントン刑事をジャン・レノ、事件の重要容疑者となる人気歌手をビヨンセ・ノウルズ、そして事件の被害者となる男をノークレジットでジェイソン・ステイサムが演じるという豪華キャスト。監督はマーティンと『12人のパパ』でコンビを組んでいるショーン・レヴィで、主演のマーティンは共同脚本家としてもクレジットされている。

 フランス中が注目するサッカーの国際試合で、フランス・チームの監督イヴ・グルアンが殺され、死体の手からは貴重なダイヤモンド「ピンクパンサー」が消えていた。テレビカメラの前で行われたこの大胆な殺人と窃盗事件に対し、ドレフュス警視は特別捜査チームを結成して陣頭指揮にあたる。また犯人とマスコミを攪乱するため、フランス警察で一番のドジ警官、ジャック・クルーゾーに白羽の矢を立てた。そうとは知らないクルーゾーはこの大抜擢に大喜び。早速捜査を開始するのだが……。

 ハリウッドで活躍する俳優たちが、フランス語なまりの英語でフランス人を演じるというのが、そもそもちょっと時代錯誤かもしれない。この映画はフランス人の形式主義や権威主義、気取りや自意識過剰ぶりを笑っているのだが、こうした国民性をネタにしたギャグには今さらの感がつきまとってしまうのだ。「フランス人は」「ドイツ人は」「イタリア人は」「ロシア人は」という国民性の明確な違いというのが、かつては存在したのかもしれない。でも今はどの国も大量の移民を受け入れたり、ヨーロッパ内部で人の移動が自由になっているせいで、昔ほどその国固有の「らしさ」はなくなっている。今では薄れている「らしさ」を強調することで、かえってこの映画は「らしさ」を失ってしまったようにも思う。

 とぼけたクルーゾー警部と切れ者ドレフュス警視を対比させるには、ドレフュス警視の捜査をもっと合理的で筋の通ったものにした方がよかったのではないだろうか。しかしこの映画のドレフュス警視はケヴィン・クラインの怪しげなフランス語風英語の効果もあって、登場した瞬間から間抜けな警官に見えてしまう。「犯人は中国人だ!」と断言するに至って、その予測は確定的なものになる。ドレフュスもまた、まるで見当違いの捜査をしているのだ。こうなると映画の中からは、クルーゾーとドレフュスのどちらが早く真犯人にたどり着くかという競争の面白さが消えてしまう。細かなギャグには面白いものもあるが、映画としてはやや低調で盛り上がりに欠ける作品だ。

(原題:The Pink Panther)

5月13日公開 日比谷みゆき座ほか全国東宝洋画系
配給:20世紀フォックス
2006年|1時間33分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|DTS、ドルビーデジタル、SDDS
関連ホームページ:http://www.foxjapan.com/movies/pinkpanther/
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