ママが泣いた日

2006/05/12 映画美学校第2試写室
夫が失踪して残された妻と4人の娘たちが織りなす3年間。
脇役のケヴィン・コスナーが好演。by K. Hattori

 ウルフマイヤー家の主人が、妻と4人の娘たちを残して失踪した。どうやら秘書の若いスウェーデン人と駆け落ちしたらしい。夫の無責任な裏切り行為に妻のテリーは激怒するが、成長している娘たちは彼女ほどには怒れない。なにしろ一家5人分の怒りを、母のテリーがひとりで受け持っているかのような剣幕なのだ。娘たちは父の行動に怒るより前に、まずは母の怒りをなだめなければならない。父がいようといまいと、彼女たちは日々の生活を続けていかなければならないのだ。そんなウルフマイヤー家に急接近するのが、近くに住む元メジャーリーガーのデニーだ。以前からテリーに好意を持っていた彼は、この機に乗じて彼女との距離を縮めていくのだが……。

 父親が不在の家庭を舞台に、母と4人の娘たちが織りなす人間ドラマ……となれば、これはルイザ・メイ・オルコットの「若草物語」だ。長女は結婚、次女はマスコミに就職、三女は病気になり、四女は芸術肌という役割分担も同じなら、親しい隣人はお金持ちで、物語の最後が父の帰還で終わるという構成まで似ている。こうした類似は、おそらく映画の作り手がわざと意図したものだろう。監督・脚本のマイク・バインダーは、本作にラジオ局のディレクター役で出演もしている。脚本のアイデアは彼の子供時代に両親が離婚したことがベースになっているそうだが、さまざまなエピソードを1本の映画として構成する際、「若草物語」の骨組みを借りたということかもしれない。

 『ママが泣いた日』という映画を現代版の「若草物語」として観ると、これはそれほどまとまりのいい映画にはなっていない。末娘の視点からストーリーを語るというスタンスも曖昧で場当たり的だし、中途半端に放り出されてしまったかに思えるエピソードもあって、映画を観ていても「それでどうなった?」という歯切れの悪さがある。しかしこれは物語を一家の母親と、その恋人デニーを中心に進めて行った結果だろう。「若草物語」の母は父の留守中に隣人と恋仲になったりしないが、この映画の母はそうしたことに躊躇しない。(とはいえ映画の中では3年の月日が流れているのだから、これはこれで十分な時間ではあるのだけれど……。)

 この映画で一番の収穫は、デニー役のケヴィン・コスナーだと思う。元メジャーリーガーという役柄は、彼が出演してきた『さよならゲーム』や『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』の野球選手役を連想させる。かつては大作映画に次々主演し、好き放題に大スターのわがまま勝手を押し通してきた男。(『ウォーター・ワールド』や『ポストマン』のヒドさ!)それがこの映画では、「老い」を意識し始めた孤独で偏屈な中年男を演じている。主役として映画の中央に出しゃばらず、脇で主役をサポートする役を楽しんでいる。少し前に観た『迷い婚』もそうだったが、老け役開眼したケヴィン・コスナーには今後も注目したいところだ。

(原題:The upside of anger)

6月3日公開予定 渋谷アミューズCQN
配給:キャガ・コミュニケーションズ、アニープラネット
宣伝:クアパ・グアポ
2005年|1時間57分|アメリカ|カラー|シネスコサイズ|ドルビーデジタル、DTS
関連ホームページ:http://www.annieplanet.co.jp/mama/
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