エンター・ザ・フェニックス

2006/04/12 シネマート試写室
マフィアのドンの跡取り息子が持つ重大秘密とは?
スティーブン・フォンの初監督作。by K. Hattori

 香港黒社会を支配するボスが病に倒れた。組織に必要なのは、彼の一人息子ジョージが帰国して後継者となること。しかしジョージには組織の長になれない理由があった。それは彼がゲイであることだ。組織生き残りのため、事情を知りつつジョージの帰国をうながすボスの側近たち。だがそこで手違いが起きた。彼らはジョージの友人サムを、ボスの息子と思い込んでしまったのだ。この勘違いをいいことに、ジョージは新しいボスの座を友人に譲り渡し、自分はその側近として香港に戻ることにした。だがそこにはジョージに深い恨みを持つ、ライバル組織の若き幹部チャウの罠が待ち構えていた……。

 ジャッキー・チェンが製作総指揮し、『ジェネックス・コップ』シリーズのスティーブン・フォンが初監督したアクション・コメディ映画。主人公のジョージを演じているのは、『美少年の恋』や『ジェネックス・コップ』など数々の映画でフォンと共演し、プライベートでも親友関係にあるというダニエル・ウー。ジョージと勘違いされるサム役には、人気歌手でもあるイーソン・チャンが扮している。脇を固めるのは久々に観たような気がするカレン・モク、チャウ・シンチー作品の常連ロー・ガーイン、『インファナル・アフェア』シリーズの好演も記憶に生々しいチャップマン・トウなど。ユン・ピョウが冒頭から登場して貫祿を見せれば、製作者のジャッキー・チェンもワンシーンだけ出演しているのでお見逃しなく。(まあ見逃さないような場面ではあるけれど。)

 香港製の娯楽映画としては、まずまず普通に面白い水準。俳優出身監督のデビュー作で、後ろ楯が香港映画界の超大物。内容は肩のこらない娯楽作で、こう言ってはナンだが、型通りの展開で新鮮味はさほどない。しかしこうしたスタイルだからこそ、出演している俳優たちは伸び伸びと自分たちの個性を発揮できるし、演出する側も出演者側を信頼して気持ちよく仕事ができたに違いない。普通に考えれば、お姉さん女優のカレン・モク(1970年生まれ)が可憐なヒロインを演じるなんてあり得ない。もう少し若くて可愛い、アイドル女優を使うのが常道だろう。しかしこの映画ではこうした必要以上に豪華な配役こそが、観ている者にとって最高のご馳走なのだ。若い俳優が監督業という新しい道への第一歩を踏み出すことを、周囲の俳優仲間たちが祝っているような幸福感が、この映画のあらゆる弱点をカバーしてしまう。

 監督のスティーブン・フォンは主人公の命を狙うチャウ役で出演もしているが、この役は登場シーンが少ないわりに、映画の中では唯一濃い影を持つ複雑なキャラクターだ。これは存在感のある俳優でなければ務まらないし、フォンは監督と出演の兼業でもあまり差し障りがなく、しかも演じていて最も魅力的な役をちゃっかりと手に入れたことになる。ウマイ。しかしそのオイシイところも、最後はジャッキーが全部かっさらう。ズルイ。

(英題:Enter the phoenix)

6月公開予定 シネマート六本木ほか全国
配給・宣伝:エスピーオー
2004年|1時間44分|香港|カラー
関連ホームページ:http://www.cinemart.co.jp/
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