奇跡の夏

2006/04/05 映画美学校第2試写室
兄が脳腫瘍を患った幼い兄弟の出会った奇跡。
実話をもとにした難病ドラマ。by K. Hattori

 9歳のハニは腕白盛りの男の子。3つ上の兄ハンビョルは、頼れる兄貴であると同時に一番身近な遊び相手だ。ところがそのハンビョルの身に突然異変が起きた。医者の診断は脳腫瘍。入院して手術を受けたハンビョルに両親がかかりきりになるのが、まだ親に甘えたい年頃のハニには我慢できない。脳腫瘍が命に関わる病気だという認識が、9歳のハニにはまだないのだ。看病疲れとかさむ治療費で毎日暗い顔をしている両親の前で、ハニはわざとおどけてみせたり、いたずらをしたりする。そんな中、ハンビョルは入院している病院で、ウクという同室の少年と親しくなるのだが……。

 原作はカナダで暮らす韓国人シナリオライターのキム・ヘジョンが、脳腫瘍に冒された息子とそれを支える家族について書いた実録エッセイ。彼女の妹で『カル』の脚本家キム・ウンジョンがこれを脚本化し、新人のイム・テヒョン監督が映画化している。映画でも主人公一家の家族構成などはそのままのようだが、舞台をカナダのバンクーバーから韓国に移したり、両親の職業についても細かく触れないなど、大小さまざまな映画向けの脚色をしている。これは主人公一家を、韓国の観客に近い場所に引きつけるためのやむを得ない工夫だ。母親がシナリオライターで夫が航空会社勤務、おまけに一家揃って海外暮らしでは、韓国で暮らしている映画の観客には話が遠すぎる。原作にあったという高額な医療費の問題なども、映画ではあまり声高に叫ばれていない。

 映画はごく普通の平凡な家族が、子供の病気で大きく動揺する姿を等身大の大きさで描こうとしているのだ。子供の病気がわかった直後、病院の待合室で妻が夫をなじるシーンは観ていて辛い。しかしこうした辛さは、たぶん子育てをしている人なら誰もが感じたことのある辛さなのかもしれない。兄が病気になっても、弟がなかなかその重大さを実感できずわがままに振る舞うのも、観ていてイライラさせられるほどの真実味がある。病気と闘いながらも健気に振る舞っていたお兄ちゃんが、二度目の手術の前に土壇場で駄々をこねる場面は涙が出そうになった。みんな子供なのだ。まだ9歳と12歳なのだ。苦難の中で大人びた表情をみせる子供たちが、ふとした時に甘えた子供に戻る場面にはホロリとさせられる。

 しかしこの映画は、リアリズム一辺倒ではない。実話をもとにした子供の難病ものという想いテーマでありながら、ファンタジーのような明るさと幸福感に包まれている。その中心になるのが、病気で余命幾ばくもないウクという少年だ。この映画での彼の描かれ方を観ると、韓国という国は本当にキリスト教国なのだな〜と痛感させられてしまう。このウクは病気の子供に寄り添う、幼子キリストなのです。彼は山の上で一度死んだ後に復活し、最後は天に召される。森に住むターザンおじさんはクリストフォロス。映画の最後には画面にはっきりと十字架が映し出されます。

(英題:Little brother)

夏公開予定 シャンテ・シネ
配給:パンドラ 宣伝協力:スキップ
2005年|1時間37分|韓国|カラー|シネスコサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.pan-dora.co.jp/
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