NOEL(ノエル)

2005/10/31 GAGA試写室
大都会で孤独なクリスマスを過ごす人々に起きた奇跡。
チャズ・パルミンテリの監督デビュー作。by K. Hattori

 最近は日本でも「クリスマスは愛する人と共に過ごす日」という考えが定着し、恋人のいる人はデートのためにそそくさと会社を後にし、家族のいる人もいそいそと家路に付くのがすっかりお馴染みの風景になっている。クリスマス・イブに残業でもしていようものなら、それだけで何かひどく寂しい人のように見えてしまうほどだ。そもそもキリスト教の伝統がまったくない日本ですらこれだから、キリスト教伝統が根強いアメリカになれば、ひとりで過ごさねばならないクリスマスはかなりヘヴィーな時間となることだろう。この映画は大都会ニューヨークを舞台に、拷問のような「ひとりのクリスマス」を過ごす人々を描いたファンタジーだ。クリスマス映画には「奇跡」がつきもの。この映画の中でも、さまざまな奇跡が起きる。

 監督はハリウッドで個性派俳優として活躍しているチャズ・パルミンテリで、これが映画監督デビュー作。もともと舞台俳優で戯曲も書いていた人だし、本来ならもっと早くに監督デビューする機会があってもよかったはずなんだけど……。

 クリスマス・イブの1日を、複数の登場人物たちがどう過ごすかを描いたグランドホテル形式の群衆劇だ。登場人物たちのエピソードはところどころで重なり合い、最後はみんなが少しずつ幸せになる。登場する奇跡は超自然的なものもあれば、そうでないものもあってバラエティに富んでいるのだが、映画の最初に「天使」のモチーフを登場させることで、すべての出来事の上に超自然的な力が及んでいることを感じさせる仕掛けだ。個々の登場人物たちにとって、自分の身に起きた出来事は偶然の産物かきわめて幸運な出来事と解釈されるかもしれない。しかし映画を観ている人は、この世界全体を見守る、超越者の優しい眼差しの存在を感じることだろう。それは「神」だろうか? それとも映画の製作者たち? まあどっちでも構わない。映画を観終えた後、観た人までもがちょっと幸せな気持ちになれることが大切なのだ。

 観客はこの手の映画を観れば、すぐに「クリスマスの奇跡」の物語だと察する。代表例は『素晴らしき哉、人生!』だ。たぶんどこかで超自然的なことが起きて、主人公たちが救われると予想する。この映画の脚本はそんな観客の思惑の裏をかき、超自然現象が起きると思わせておいて、その期待をあっさり裏切ってしまう。このあたりは、ありきたりなオチとはいえ効果的だ。しかし映画にはさらに先がある。映画の中では、本当の奇跡が起きるのだ。これは面白かった。

 監督が俳優でもあるせいか、役者の使い方が素晴らしかった。スーザン・サランドンやペネロペ・クルスが上手いのは前からだが、この映画で思いもかけないデリケートな芝居を見せているのが『ワイルド・スピード』のポール・ウォーカー。映画の序盤ではいつも通りのマッチョ男を演じているが、そこから別の表情を見せていくあたりはいい!

(原題:NOEL)

12月10日公開予定 東劇
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマ
宣伝:ギャガ宣伝【冬】、ライスタウンカンパニー
2004年|1時間36分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|DOLBY DIGITAL、DOLBY SR
関連ホームページ:http://www.noel-movie.jp/
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