イツカ波ノ彼方ニ

2005/10/25 サンプルビデオ
沖縄を舞台にしたファンタジックな青春映画だが……。
物語が風景の迫力に負けている。by K. Hattori

 龍宮城を探す男たちと、記憶を失った少女の物語。何となく作り手側の狙いはわかるような気がしないでもないが、お話にはまったく力がない。これは物語が、風景に負けているのだ。ロケ地は沖縄のようだが、その風景のスケールと強烈な個性に、小さな物語がすっぽりと飲み込まれてしまって手も足も出ない。おそらく映画を作る側は、この小さな物語を沖縄の風景に拡大投影することで、映画にスケール感や躍動感が生まれることを期待したに違いない。しかし映画を観る限り、このロケ地選択はまったくの失敗だったように思える。同じ話を展開するなら、背景はもっと殺風景な方がよかった。海は灰色で、空もどんより曇っているような、そんな単調な風景の中でこそ、主人公たちの夢見る龍宮城が原色にキラキラと輝くのではないだろうか。

 物語はファンタジーで、エピソードの随所にコメディタッチの部分が多い。しかしこうした描写に、まったく切れ味がないのだ。ストーリーはかなり大胆だし、キャラクターも面白い。しかしエピソードに伸びやかさがなく、ひとつひとつのギャグも何やら萎縮しているような印象だ。そのため映画を観ていても、それが笑っていい場所なのか笑うべきでない場所なのか、とても戸惑ってしまう。盲目の座頭市ボクサーとか、悪魔に魂を売ってサンシンの腕を上げたい青年など、そこから物語を発展させられそうな興味深いキャラクターがいるのに、そこからの発展がまるでない。それどころか、これらの人物がなぜこの物語に必要なのか、その理由さえよくわからないのだ。

 主人公のアキ、記憶喪失少女のイチゴ、座頭市ボクサーのツヨシ、サンシン青年、アキを追ってきたヤクザたち、そして愛知博マスコットのモリゾーやキッコロを思わせる不思議なぬいぐるみ(サンシンの悪魔かな?)など、この映画がスタートしてから島に現れる不思議なキャラクターは多い。どうもこの島は、こうした人々や魔物(?)を引きつける力を持っているらしい。しかしその不思議な力の正体について、映画には何も描かれない。ひょっとしたらそこは、既に我々の暮らす世界とは次元を異にしているのかもしれない。主人公のアキも勝男もじつはすでに死んでいて、そのマブイ(魂)が「波ノ彼方」に向かうまでの一時を、この不思議な島で過ごしているだけなのかもしれない。そんな奇抜な想像さえ許してしまうのが、この映画の不思議さだと思う。残念ながら、その不思議さが魅力にはなっていないのだけれど……。

 アキを演じた平岡祐太にしろ、イチゴを演じた加藤ローサにせよ、色白のほっそりした顔だちは舞台となっている島に似合わない。勝男がイチゴに乙姫の面影を見たのは、彼女が「島に似合わない」からこそだろう。しかしアキまでが異世界からの旅人のように見えてしまうのは、ちょっと違うのではないだろうか。それとも、いいのかな、これで……。

10月29日公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:日本出版社、エキスプレス 宣伝:る・ひまわり
2005年|1時間28分|日本|カラー|ヴィスタサイズ
関連ホームページ:http://www.itsunami.net/
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