ランド・オブ・プレンティ

2005/10/07 アスミック・エース試写室
9.11テロによって世界が負ったトラウマを描くいた、
ヴィム・ヴェンダース監督の“アメリカ映画”。by K. Hattori

 自由な生き方を貫いた母親と共に世界各地で暮らしてきた少女ラナが、10年ぶりに故郷アメリカに帰って来た。亡くなった母からの手紙を、ただひとりの肉親となった伯父に手渡すのが目的だ。だがその伯父ポールは、相棒ジミーとたったふたりでアメリカをテロから守る活動をしている。ラナが身を寄せた伝道所を訪ねたポールは、そこで偶然ひとりのアラブ系ホームレスが射殺される現場に遭遇する。これこそテロの証拠。背後では大きな陰謀がうごめいているはずだ。ラナとポールは、共同で男の身寄りを探し始めるのだが……。

 ヴィム・ヴェンダース監督の最新作。映画のテーマになっているのは、9.11テロによって世界の人々に生じたトラウマだ。映画はアメリカ国内にあるふたつに分裂した立場を、ふたりの主人公に代弁させている。ひとつは世界にはびこる暴力に心を痛め、人々が互いに和解して平和な世界が来ることを願う理想主義的な立場。もうひとつは暴力を秩序への挑戦や反逆と解釈し、それに対抗するためにはあらゆる手段を使って武装することも辞さない立場。映画では前者をラナが代弁し、後者をポールが代弁する。しかしそのどちらの立場も、現実の世界を1ミリたりとも動かすことはできない。

 しかしその現実世界は、じつはそれほど単純なものでもないのだ。人間の立場や考え方の違いによって、世界はいくらでも異なった表情を見せる。同じ世界の中で同じ事件に接しても、立場の違うラナとポールにとって、それはまったく異なった意味を持つ。映画のふたりの主人公たちは、同じ時間と空間を共有しながら、じつはまったく異なった世界に生きているのだ。世界はきわめて主観的な存在であるがゆえに、たとえ現実の世界が1ミリも動かなかったとしても、世界は常に大きく変化し動いていく。

 被害妄想気味の愛国者ポールにとって、映画の最初と最後で世界の意味は大きく変わった。ラナにとっても、世界の見え方は大きく変わったことだろう。とても難しいことだが、世界はこのようにして「変わる」のだ。自分自身が変わることで、世界は敵対的なものにもなるし、友好的なものにもなる。それを決めるのは自分自身なのだ。

 多くの人たちは、自分にとって友好的な世界を望むだろう。しかしある人たちにとって、友好的な世界よりも敵対的な世界の方が住みやすくて快適なことがある。そうした世界に住み慣れてしまっいてる人にとって、周囲の世界が自分にとって友好的なものだと認めるには、大きな苦痛が伴うのだ。この映画の主人公ポールは、大きな苦痛を乗り越えて敵対的な世界から抜け出すことに成功したかに見える。人間は変われる。人間が変われば世界は変わる。しかしそこに至る道は険しい。

 ヴィム・ヴェンダースはかつてロード・ムービーの巨匠だったが、この映画も最後はロード・ムービー。ロサンゼルスから始まった旅は、ニューヨークで終わる。

(原題:Land of Plenty)

10月22日公開予定 シネカノン有楽町
配給:アスミック・エース
2004年|2時間4分|アメリカ、ドイツ|カラー|スコープサイズ|SRD
関連ホームページ:http://www.landofplenty.jp/
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