チャーリーとチョコレート工場

2005/08/03 ワーナー試写室
R・ダールの代表作「チョコレート工場の秘密」の再映画化。
主人公はミスター・ウォンカ。by K. Hattori

 大人向けの「奇妙な味の短編」で有名な小説家ロアルド・ダールは児童文学の世界でも風変わりで魅力的な物語をいくつも発表しているが、これはその代表作「チョコレート工場の秘密」の再映画化だ。(最初の映画化は1971年にメル・スチュアートが監督した『夢のチョコレート工場』。)監督のティム・バートンは、同じ原作者の「おばけ桃の冒険」を1996年に『ジャイアント・ピーチ』という映画にしているから(バートンは製作のみ。監督はヘンリー・セリック)、たぶんその頃から「チョコレート工場の秘密」も十分に意識していたのだと思う。

 物語の主役は言うまでもなくタイトルにもある「チャーリー」なのだが、今回の映画では工場の社長であるウォンカ氏をジョニー・デップが演じて、むしろウォンカ氏の変人ぶりを描いた映画になっている。ウォンカ氏と父親との確執が物語の背景にあって、最後は彼が父親と和解してハッピーエンド。「父との和解」というテーマは、ティム・バートンの前作『ビッグ・フィッシュ』でも取り上げられていたものだから、これはそのバリエーションと言えるかもしれない。『ビッグ・フィッシュ』のエドワード・ブルームは荒唐無稽なファンタジーを語って周囲を楽しませるが、『チャーリーとチョコレート工場』のミスター・ウォンカは荒唐無稽なファンタジーを自分の工場内で具現化してしまった人物なのだ。

 主演のジョニー・デップは、ティム・バートン作品でいつも監督の分身のような役を演じてきた俳優。デップがミスター・ウォンカを演じた時点で、この映画は原作から離れて『ミスター・ウォンカとチョコレート工場』になったのだ。物語としてはチャーリーが主役なのに、監督の思いとしては狂言回しのミスター・ウォンカにベッタリという食い違いが、この映画を奇妙なものにしている。不思議な工場を見て回るワクワクドキドキより、自慢の工場を見せびらかせたいというウォンカ氏の気持ちが勝って、そこで起きる出来事のすべてが予定調和のヤラセに見えてしまうのだ。

 ウォンカ氏は最初から、5人の中から誰かひとりを選ぼうなんて考えていない。すべてはチャーリーのために演じられる、仕組まれたショーなのだ。チャーリー以外の4人の子供たちは、ウォンカ氏の眼鏡に適わないがゆえに好き放題に虐待さる。ウォンカ氏の徹底した依怙贔屓は、なんだかひどく意地が悪い。しかしまあ、そうした罠を避けるチャンスがあっても子供たちはそれにはまってしまうのだから、自業自得といえばそれまでか。ひょっとしたらチャーリーのためにも、何かとんでもない罠とダンスナンバーが用意されていたのかもしれない。そう考えると、ウォンカ氏というのはとてつもなく孤独な男だ。

 ウォンカ氏はなぜチャーリーを選んだのだろう? それはチャーリーだけが自分の「親」を工場に同行しなかったからかもしれない……。

(原題:Charlie and the Chocolate Factory)

9月10日公開予定 丸の内ピカデリー2ほか全国松竹東急系
配給:ワーナー・ブラザース映画
2005年|1時間55分|アメリカ|カラー|ビスタサイズ|SR、SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://charlie-chocolate.warnerbros.jp/
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