サマー・タイムマシン・ブルース

2005/07/13 映画美学校第2試写室
『踊る大捜査線』の本広克行監督が撮ったSF青春活劇。
タイムマシンを巡るドタバタ劇。by K. Hattori

 『踊る大捜査線』シリーズや『交渉人真下正義』の本広克行監督が、故郷香川県で撮った小さなSFドラマ。劇団「ヨーロッパ企画」が2001年に初演した同名の“青春空想科学グラフィティ”を、舞台版の作・演出家でもある上田誠が映画用に脚色している。これは設定だけSF風のギミックを拝借したハリウッドのSF映画とは違い、タイムマシンとタイムパラドックスをテーマにした、本格SFドラマの骨格を持っている。ただしそれがSFとしての驚きを生み出すかというと、なぜかさっぱりなんだけれど……。本広監督にSFマインドが欠如しているのかな〜。

 本広監督と小劇団の芝居という組み合わせには、ジョビジョバの舞台を映画化した『スペーストラベラーズ』があった。もともと芝居が好きな監督なのかもしれない。ただし今回の映画も、『スペーストラベラーズ』と同じ欠点を持っているように思う。それは演劇の舞台空間の中でだけ成立するリアリズムを、そのまま映画に移植しようとする試みが、必ずしも成功していないことだ。もちろん『踊る大捜査線』の監督は「映画的リアリズム」のなんたるかを百も承知だろうし、それを承知の上でも、あえて別種のリアリズムを映画に持ち込もうとしているのだろう。でもそれが、やはり「わざとらしい」印象を残してしまう。台詞掛け合いのテンポしかり。数々の段取りしかりだ。

 演劇はクローズアップもスローモーションもフラッシュバックもないから、観客に強く印象づけるべきキーポイントを、これ見よがしに強調しておく必要がある。この映画はタイムトラベルにまつわる些細な世界の変更がキーだから、ただでさえ「これ見よがし」が多いのだ。最初にフラッシュでキーポイントを並べてしまうなど、映画としての工夫は感じられるが、それでも映画の随所に「段取り芝居」の匂いがまだ残っている。もっともこの映画の場合はそうした段取りが、映画の流れを区切ってリズムを作っている。同じ話を普通の映画的リアリズムで演出すると、この騒々しさやにぎやかさを表現するのに、また別の表現を考え出さなければならない。原作舞台を観て面白いと思った監督としては、それを望まなかったということだろう。

 それでも今回の映画は『スペーストラベラーズ』に比べると、ずっと映画としてまとまりのあるものになったと思う。タイムトラベルものでストーリーの枠組みがガッチリと組み上がっており、エピソード同士の結びつきもかなり緻密。夏休みで人気のなくなった大学の2日間という空間と時間に、複雑に入り組んだエピソードを無駄なくきっちり詰め込んだ密度の濃さ。それだけでは窮屈になってしまいそうな話も、監督の故郷・香川県でロケした風景と組み合わされると、適度に隙間ができてくる。舞台が東京の大学だと、またべつ印象になったのではないだろうか。ロケの効果って、偉大だよな〜。

夏公開予定 渋谷アミューズCQN、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋
配給:東芝エンタテインメント
2005年|1時間47分|日本|カラー|ヴィスタ1:1.85|DTSステレオ
関連ホームページ:http://stmb.playxmovie.com/
DVD SpecialShop DiscStation 7dream_88_31 TSUTAYA online
ホームページ
ホームページへ