怪談新耳袋[劇場版]

幽霊マンション

2005/07/12 TCC試写室
古びたマンションで住民たちが隠そうとする秘密とは?
黒川芽以主演のホラー映画。by K. Hattori

 BS-iの人気ドラマ「怪談新耳袋」の劇場版第2弾。前回の映画は短編オムニバスだったが、今回は1時間半の長編作品になっている。フリーライターの父と、古びたマンションに引っ越してきた17歳の愛美。不自然なほど大喜びで父子を歓迎する住人たちだったが、じつはこのマンションには住人以外に他言できない恐ろしい秘密があったのだ。今から30年ほど前、当時高校生だったオーナーの娘が行方不明になって以来、このマンションは呪われているのだという。孤独な幽霊は住民が去っていくことを嫌い、夜中の12時までに帰宅しない住人は殺されてしまうという。ただし新しい住人が入居したときは、もっとも古い住人がマンションを去ることが出来るのだという……。

 長編映画ではあるが、呪われたマンションに住み続けることを余儀なくされている住人たちの事情をひとつひとつクローズアップしていくスタイルは、一種のオムニバス形式と言えるかもしれない。「オムニバス」の語源は乗合馬車。この映画の中では複数の家族たちが、ひとつの馬車ならぬマンションに閉じ込められることを強いられているわけだ。マンションから出られないのに、会社から転勤の辞令をもらったら……。マンションから出られず、仕事を失ってしまったら……。12時までにマンションに帰るつもりが、不測の事態でそれが難しくなってしまったら……。マンション住民たちには、次々にそんな試練が降りかかってくるのだ。

 何も知らない親子が呪われたマンションに引っ越してきて、そこで住人たちから初めて事情を知らされるという筋立ては、映画を観る観客にマンションの抱えた事情を知らせるにはいい方法。ヒロインの愛美が敏感にマンションの異変に勘づくのに対し、父親は飲んだくれてまったくそれに気づかず、話を聞かされてもまるで本気にしないという流れも現実的だと思う。幽霊話がマンション住民全員の幻想だと考えるのが、比較的受け入れやすい合理的説明だからだ。

 愛美がなぜ幽霊に気配を察知し、父親がなぜそれに気づけないのか、その理由は最後のオチで明らかにされる。そこで語られているのは、世の中には幽霊や呪いよりも恐ろしい現実的な恐怖が存在するという事実だ。幽霊話としてはニヤニヤしながら見ていればいい映画なのだが、このオチはちょっと後味が悪かった。

 劇中で一番面白いエピソードは、管理人と妻の恐怖体験を描いた部分と、根岸季衣扮するホステスの話。他の住人のエピソードも含め、「恐さ」という点ではどれもまったく物足りないのだが、マンションに漂うイヤ〜な感じは伝わってくる。本当のことを誰も口には出そうとしない、絶対のタブー。運命共同体として和気あいあいと暮らしつつ、その裏側では互いが他人の不幸を望んでいるのだ。他人が不幸になれば、自分は不幸から開放されるのだから……。これはこれで、現代日本社会の縮図のようでもある。

8月15日公開予定 六本木・俳優座劇場
配給・宣伝:スローラーナー
2005年|1時間33分|日本|カラー
関連ホームページ:http://actcine.com/sinmimi/
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