炎のメモリアル

2005/06/25 錦糸町シネマ8楽天地(シネマ6)
新人消防士の成長ぶりをホアキン・フェニックスが好演。
リアルな生活感が最後の感動を呼ぶ。by K. Hattori

 ボルティモアの消防士ジャック・モリソンは、現場での人命救助活動中に炎の中で孤立し、仲間たちの助けを待つことになる。脳裏に浮かぶのは新人時代から今に至る、10年以上の消防士生活。仲間や家族に支えられて、消防士という最高の仕事が今まで続けられた。ジャックは無線で呼びかけてくる仲間の声に答えながら、必死に脱出路を捜すのだが……。

 長い時間をコンパクトな映画の中に押し込むのに、回想形式は便利なものだ。この映画も主人公の長きに渡る消防士生活を、回想形式を上手く使って上手にまとめている。2時間弱の映画の中に、印象的なエピソードがてんこ盛り。パイ生地のようにきれいに折り込まれたそれらエピソードに、火災現場での事故という切断面を設定して観客に提示するのはウマイ。監督は回想形式で少年と犬の関わりを描いた感動作『マイ・ドッグ・スキップ』のジェイ・ラッセル。脚本のルイス・コリックにも、ノスタルジック系の実話ドラマ『遠い空の向こうに』や、有名歌手の一代記『ビヨンド the シー/夢見るように歌えば』があって、この手の作品はお手のものらしい。

 映画の企画としては9.11テロで犠牲になった消防士たちを顕彰するため、何か作品をというものだったようだ。しかし完成した映画は特にテロ事件と結びついていないばかりか、舞台もメリーランド州北部の港湾都市ボルティモアになっている。映画に出てくる火災は、大きな犯罪と結びつけられることはない。消防士映画としては先発の作品に『バックドラフト』があるが、あちらは火災にまつわるミステリーが物語の柱。ひたすら消防士の日常活動を追いかける『炎のメモリアル』は、まったく別コンセプトの映画なのだ。

 この映画を観ていてわかるのは、犯罪やテロと関係がなくても、消防士の仕事は常に危険だし、常に人の命と向き合っている大切な仕事だということだ。テロで破壊された貿易センタービルに飛び込んで行った消防士たちは、確かに勇敢な人たちだったに違いない。しかしそれと同じ勇敢さで炎や煙の中に飛び込み、人命救助にあたる人々が我々のすぐ隣で暮らしていることを忘れるべきではない。おそらくそれが、物語の舞台がテロ事件のあったニューヨークからボルティモアに移った理由だろう。

 この映画に登場する消防士たちは確かに勇敢な「ヒーロー」だが、同時に彼らはごく普通の夫であり、父親であり、息子であり、兄弟なのだ。火災現場に飛び込んでいくのと同じ人たちが、近所のスーパーで買物をし、庭でバーベキューを楽しみ、時にはバーで飲んだくれたり悪ふざけをしてはしゃいでいる。主人公ジャックや仲間の消防士たちは、決して特別な人間ではない。特殊な超能力を持つスーパーヒーローではないし、何らかの特権を持つ選ばれた人間でもない。この映画は今日もどこかで危険な任務にあたる、無名の消防士たちへのリスペクトなのだ。

(原題:Ladder 49)

5月21日公開 日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系
配給:東宝東和
2004年|1時間56分|アメリカ|カラー|1.85:1|DTS、Dolby Digital、SDDS
関連ホームページ:http://www.honoo.jp/
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