ふたりの5つの分かれ路

2005/05/27 GAGA試写室
永遠に見つけ出すことのできない愛の不思議……。
フランソワ・オゾンの名人芸。by K. Hattori

 フランソワ・オゾン監督の新作は、ある夫婦の離婚から始まるミステリアスなラブストーリー。ふたりはなぜ離婚しなければならなかったのか? 夫婦関係のどこに問題があったのか? 結婚したのが間違いだったのか? そもそもふたりはどこで知り合ったのか? こうした数々の疑問に答えるように、映画はふたりのこれまでの歩みを過去へ過去へとさかのぼっていく。だがそこにあったものは……。

 物語が過去へとさかのぼる映画は少なからずある。僕は『メメント』や『ペパーミント・キャンディ』をすぐ思い出すが、『アレックス』という映画も話題になった。(ただし僕はこの映画を未見。)この手の時間逆転映画は、映画の冒頭で何か衝撃的な事件を観客に提示して、「なぜこうなったのか?」というミステリーの絵解きをしていく。『メメント』では殺人事件、『ペパーミント・キャンディ』では主人公の自殺。オゾン監督はそうした常套句を使わない。映画は夫婦の離婚から始まり少しずつ過去へさかのぼるのだが、映画を最後まで観ても、結局離婚の原因はわからない。「なぜ?」というミステリーで観客を引っ張って、結局はその答えを教えてもらえないのだ。

 この映画はこうした「答えのなさ」そのものがテーマになっているようにも思う。映画は主人公夫婦にとっての「決定的瞬間」そのものを、あえて描かない。もちろんそこでは衝撃的な告白もあれば、劇的な出来事も起きているのだが、それが夫婦にどんな影響を与えたのかについては沈黙している。映画の最後に残るのは、大きな謎だけ……。

 しかし僕はこの映画に大いに満足した。男女関係に「答えがない」ことなど、幾度か恋愛をした人なら(つまり恋の破局を経験したことのある人なら)、誰でも知っていることなのではないだろう。答えがないのはそれが実際にないからなのか、見えないところに何かがあるのか、目の前にあっても鈍感で気がつかないだけなのか、それは人それぞれだろうし状況によっても違うだろう。でもひとつだけ言えることは、そこに「これが答えだだ!」という唯一決定的な原因などないということだ。

 エピソードはどれも観ている側の「どうして?」という疑問に答えるような素振りで始まり、観客の期待する回答をスルリとかわしては、新たな謎を置き去りにしていく。このはぐらかし方がウマいのナンの……。これはフランソワ・オゾン監督による、華麗なテーブルマジックなのだ。観ている側は謎の種明かしを楽しむのではなく、目の前で演じられている謎そのものを楽しむ。理解しにくい不思議なことが起きて、「どうして?」「なんで?」と戸惑い幻惑されることを楽しめばヨロシイ。

 映画の最後は海辺で出会ったカップルの幸福な未来を暗示する、美しいカットで終わる。映画の最後はハッピーエンディング。しかしこれは、悲しい終わりがあらかじめ予告されているハッピーエンディングだ。

(原題:5x2:Cinq fois deux)

8月公開予定 シャンテシネ
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ、クレストインターナショナル
2004年|1時間30分|フランス|カラー|ビスタ|SR、DIGITAL
関連ホームページ:http://www.gaga.ne.jp/
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