バースデー・ウェディング

2005/05/24 TCC試写室
話のアイデアは悪くないと思うが作り方がひどく下手くそ。
泣ける映画の基本がわかってないな〜。by K. Hattori

 フリーのドラマ演出家として数多くのTVドラマを作ってきた、田澤直樹監督の劇場映画デビュー作。幼いころに病気で母を亡くした若い女性が、自分の結婚式前夜になって、母が自分に宛てたビデオメッセージを見つけるというお話。ビデオ撮影で上映時間1時間13分という中編作品だが、これがひどく長く感じて仕方がなかった。これは1時間以内でまとまる内容を、わざわざ劇場用に水増ししているだけなんじゃないだろうか。この内容なら、テレビの1時間枠でも放送できそう。つまり1時間どころか、40分ちょっとぐらいにまとまりそうな気がするのだ。

 映画は式の前夜に、上原美佐扮するヒロインが亡き母に宛てて手紙を書く短いシーンから始まり、それ以降は大きく3つの部分で構成されている。最初はヒロインがまだ幼い頃、家族3人で初冬の海岸を散歩した回想。次は結婚式前夜にヒロインがビデオを見つけ、テレビ画面を通して亡き母と交流を持つ話。最後は結婚式当日の披露宴のエピソードだ。この3つのパートを仮にA・B・Cと呼ぶなら、映画の中心はBとCにある。AはBとC、特にCでドラマを盛り上げるための仕込み。しかしそうした準備素材であるはずのAパートに、この映画はかなり長い時間をとっている。

 映画で観客を泣かせるのは詰め将棋と同じだ。盤面の状況と手駒からきちんと戦略を練らないと、詰めるはずのものも詰めなくなってしまう。この映画では最後のCパートで観客を涙の渦に巻き込むために、あえてAは抑え気味に淡々とエピソードを重ねて短めに切り上げ、続くB・Cで少しずつエピソードを厚く盛り上げて行くのが定石ではないだろうか。それなのにこの映画は、そもそもヒロインが手紙を書く冒頭から涙ぽたぽた。その後もAからCまで一貫して、観客の涙を期待するメソメソした話が続くのだ。冒頭の涙はまだいい。それには観客をギョッとさせる効果がある。だったらこの涙の理由を、続くAとBのパートではあえて伏せるのだ。そうすれば「彼女はなぜ泣いてたんだろう?」というのがミステリーになって、観客は否応なしに物語に引き込まれていくだろう。これらは脚本の問題点。

 演出上の問題としては、登場人物が少なく、画面が単調になってしまうことだ。家族3人のほかは誰もいない海岸や、テレビ画面とテレビを見るヒロインなど、同じような構図がずっと続く。開き直って長回しにでもすればまた違った趣向が生まれそうだが、ここでは会話シーンのほとんどがバストショットの切り返し。淡々としたシーンほど、カメラアングルは難しい。難しいからこそ、知恵を絞る余地があると思うのだが……。

 観客を泣かせる映画は、映画の方が観客より先に泣いてはならない。観客の目に涙がうっすらと浮かんでくるのを待ってから、音楽を流すなり決め台詞を入れるのが基本だ。僕はこの映画でまったく泣けなかった。映画が先に泣いていたからだ。

6月11日公開予定 渋谷シネ・ラ・セット
配給:タキコーポレーション 宣伝協力:フレスコ
2005年|1時間13分|日本|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.taki-c.co.jp/birthday/
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