マット・デイモン主演の本格スパイ・サスペンス映画『ボーン・アイデンティティ』の続編。出演者などは前作から引き継がれているが、監督はダグ・リーマンからポール・グリーングラスにバトンタッチした。(ダグ・リーマンは製作総指揮でクレジットされている。)前作では記憶をなくした主人公の自分探しの旅という異色の青春映画としてなかなか見応えのある作品だったが、今回の映画でテーマになっているのは、暴力と陰謀の世界で生きてきた男たちの贖罪だ。主人公のジェイソン・ボーンはこの映画の中で、自分自身が犯した過去の罪と向き合うことを求められる。しかしそれは、彼と敵対する人物も同じだ。彼もまた自分自身の罪と向き合わねばならない。
恋人マリーとインドで潜伏生活をしていたボーンは謎の暗殺者にマリーを殺され、ドイツで起きたCIA工作員の殺害事件の重要容疑者として再びCIAに追われることになる。映画の見どころは数々のアクションシーン。中でもボーンがベルリンのホテルから脱出して逃げ延びるまでの一連のシークエンスは、サスペンスといいアクションの組み立てといい、ハリウッド映画の最良の部分が出ている手に汗握る名場面。スタント・コーディネーターは、『スパイダーマン2』なども手がけているダン・ブラッドレーだ。(アカデミー賞にスタント部門があれば、この映画はノミネート間違いなしだと思う。)
今回ボーンの命を狙う相手はロシアから来た殺し屋と、人数と装備とネットワークで圧倒的な優位を誇るCIA。しかしその相手から逃げるのではなく、自ら接近していかなければ逆襲の機会はない。ボーンが敵の監視をいかにかいくぐり、敵の目をあざむき、裏をかいて敵に接近していくかがこの映画の面白さ。空港でわざと検問に引っかかってみせたり、かつての同僚宅を襲撃したり、ホテルから相手を追跡したり、あの手この手で敵の本丸に接近していくジェイソン・ボーン。まるで獲物を狙うハンターだ。しかし彼はジェームズ・ボンドのようなスーパーマンではない。彼が傷つき苦しむ生身の人間であるからこそ、観客はその活躍ぶりをハラハラしながら見守ることになる。
映画は徹頭徹尾リアリズムで、実際のスパイ活動やスパイ組織というのはこんなものかもしれないという本物らしさに満ちている。それもそのはず、監督のポール・グリーングラスは英国情報機関MI5に在籍したピーター・ライトと「スパイキャッチャー」というノンフィクションを書き、世界的なベストセラーにしたこともある人物なのだ。盗聴、囮捜査、内通者の存在など、描写がいちいちもっともらしいのは当然かもしれない。
「過去から逃げることはできない。お前が彼女の車に乗った瞬間、彼女の死は決まったのだ」という敵の捨て台詞が強烈な印象を残す。過去から逃れられないボーンの戦いはさらに続く。原作はあと1冊残されている。
(原題:The Bourne Supremacy)
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