ロング・エンゲージメント

2005/2/16 ワーナー試写室
『アメリ』の監督・主演コンビが作ったミステリードラマ。
戦場の悲惨を再現したシーンはすごい!by K. Hattori

 大ヒット作『アメリ』でコンビを組んだジャン=ピエール・ジュネ監督とオドレイ・トトゥが、再度手を取り合って作ったミステリー映画。原作はセバスチアン・ジャプリゾの「長い日曜日」。第一次大戦直後のフランスを舞台に、戦場で行方不明になって帰らない婚約者の生存を信じ、彼を探そうとする足の悪いヒロインの冒険を描いている。絵作りや個々のエピソードは『アメリ』と同じような温かいタッチだが、戦場で何が起きたのかを厳しく問い詰めていく過程は本格ミステリの語り口調。まったく異質と思われるこのふたつの要素の合体が成功と見るか失敗と見るかで、この映画の評価は正反対になるだろう。

 映画は2つのパートが交互に描かれることで進行していく。ひとつは戦争の後で、婚約者の行方を捜そうとヒロインが奮闘するシーン。ここではヒロインの周囲にも善良な人たちが集まり、ヒロインの恋の成就を応援するという『アメリ』的な世界だ。しかしもう一方はそれと正反対。回想シーンや証言の再現として描かれる悲惨な戦場の風景は、人間の悪意、猜疑心、嫉妬と羨望、貪欲さ、怠慢、嗜虐性、無慈悲などが、塹壕の冷たい土と水にびっしりと染み付いて離れない世界だ。『デリカテッセン』や『ロストチルドレン』『エイリアン4』に漂っていた終末的光景を、よりリアルに描いたものと言ってもいい。

 第一次対戦の塹壕での戦いは、『西部戦線異状なし』などこれまでにも幾多の映画で描かれてきた。しかし今回の映画は戦場と戦後の平和な風景と対比させることで、戦場の悲惨をより強調する。ここでは映画を観ている人たちの誰もが、戦場から逃げ出そうとした男たちの気持ちに同情し、その行動も無理からぬものだと納得できなければならない。ジュネ監督は飢えと寒さと爆撃と狙撃の恐怖に震える、ひたすら惨めな戦場を見事に描ききってそれに成功している。

 ただしミステリー映画としては、わかりにくいところも多い。映画を最後まで観れば「ふ〜ん、なるほど」とは思うものの、証言を積み重ねて事件の真相に迫っていくという形式なので、映画を観ながら多くの人物名を記憶する必要がある。小説ならわからなくなっても少し前に戻ればいいし、気のきいた本なら主要人物表が付いている。でも映画は最後まで、誰が重要人物で誰がそうでないのかわからないから苦労してしまう。脚本は緻密に書かれているのだが、その面白さは映画を2度観ないと本当には理解できそうにない。

 見応えのある映画ではあるが、「戦場で夫の身に何が起きたのか?」を戦後になって妻が追跡していくミステリー映画としては、深作欣二の『軍旗はためく下に』の方がよくできていたような気がする。戦場が一面の花畑に変貌しているシーンは名場面だが、似たような場面なら『ひまわり』の方がショッキングだった。まあそんなこともあって、僕はこの映画に少々点が辛くなるのである。

(原題:Un long dimanche de fiancailles)

3月12日公開予定 全国ロードショー
配給:ワーナー・ブラザース映画
2004年|2時間13分|フランス、アメリカ|カラー|シネマスコープ|SR、SRD、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://long-eng.warnerbros.jp/
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