アビエイター

2005/2/16 松竹試写室
アメリカの実業家ハワード・ヒューズの若き日を描く伝記映画。
1930〜40年代のハリウッドを華麗に再現。by K. Hattori

 今年のアカデミー賞で最多11部門にノミネートされたマーティン・スコセッシ監督の最新作は、レオナルド・ディカプリオが若き日のハワード・ヒューズを演じる絢爛豪華な伝記映画だ。1905年にテキサス州ヒューストンで生まれたヒューズは、父の死により19歳で石油掘削機メーカーのヒューズツール社を相続する。飛行機狂のヒューズはこの莫大な資産を担保に、航空スペクタクル映画『地獄の天使』を製作監督してハリウッドに進出。その後はキャサリン・ヘプバーンやエヴァ・ガードナーといった有名女優たちと浮名を流しつつ、映画製作、最新飛行機によるスピード記録への挑戦、航空会社の経営、新型飛行機の開発などにチャレンジしていく。

 アメリカにおけるハワード・ヒューズのイメージは、数々の奇行奇癖の伝説を持ち、世界各地を転々としながら晩年の隠遁生活を送った謎めいた大富豪というものらしい。しかし映画は彼が父の会社を継いで映画製作に乗り出す1920年代半ばから、社会から隔絶された隠遁生活に入る直前の1940年代末までのおよそ20年間を描いている。(ちなみに世界最初のトーキー映画と言われる『ジャズ・シンガー』は1927年公開。『地獄の天使』は1930年公開。巨大飛行艇ハーキュリーズの試験飛行は1947年だという。)この映画の企画は主演のディカプリオが最初マイケル・マンに持ち込み、スコセッシに監督依頼したものだという。ディカプリオの製作会社アピアン・ウェイの第1回作品であり、彼とスコセッシ監督にとっては前作『ギャング・オブ・ニューヨーク』の失地回復を目指した作品だろう。

 映画は少年時代のヒューズが美しい母親からマンツーマンの教育を受けるシーンから始まるが、行水しながら綴り字をおさらいするヒューズと母の姿をとらえた映像はじつにエロティック。じつはこのシーン異常にエロティシズムを感じさせるシーンは、この映画の中に二度と現れない。母と過ごした官能的な時間を起点に始まった映画は、最後にまた同じ官能的な時間の中に閉じられていく。回想形式にこそなっていないが、謎めいた大富豪の生涯が少年時代の思い出の中に閉じていくというアイデアは、オーソン・ウェルズの『市民ケーン』を連想させる。『市民ケーン』は1941年製作で『アビエイター』が描いた時代と重なり合うし、当時25歳の天才ウェルズはハリウッドに受け入れられないまま生涯を終えた。この映画は若き天才ヒューズの中に、オーソン・ウェルズと同じものを見ているのかもしれない。

 1930年代のきらびやかなハリウッドを再現したシーンや、迫力満点の飛行シーンなど、映画の中は見どころが満載。『地獄の天使』の撮影シーンは、まるで宮崎駿の『天空の城ラピュタ』や『紅の豚』を実写にしたような迫力だ。出演者も豪華で、話にまったく難解なところがないのもいい。これは大満足!

(原題:The Aviator)

3月26日公開予定 丸の内ルーブルほか全国松竹東急系
配給:松竹、日本ヘラルド映画
2004年|2時間49分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|SRD、SDDS、DTS
関連ホームページ:http://www.aviator-movie.jp/
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